「場末の映画館には猫さえ来ない」

   =場末の映画館支配人が語る30年雑記


 <第章・苦難の映画館生活が始まる>


今までも、好き放題やってきて、
若気の至りではなく、暗中模索ではなく、
すべて確かめたかったのだ、自分というものを。

客観視な目を持っていたつもりで、踏み出すと、つまずいて、ころんで、
自分の大したこと無い才能、欠点があぶりだされ、自問自答。
社会人になって、思い知らされた10年だった。

さあ、本業の映画、興行に取り組まなければいけない。

1991年。
夏休み映画の
ケビン・コスナー主演の「ロビンフッド」は、
不入りで早めに打ち切る。
そこで苦肉の策として、再映大会を敢行する。

他館で両作、大ヒットした「ゴースト ニューヨークの幻」と
「プリティウーマン」の2本立。
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組み合わせの妙。
2本とも再映なれど、予想以上にお客様がこぞってくる。
たぶん、見逃した方、リピーターと、女性客、カップルと。
映画館は、はなやかに包まれた。
助かった。
今でもいい2本立だと思う。

だが、またつまずく。
「ドク・ハリウッド」である。

マイケル・J・フォックス主演。
一攫千金をもくろむ美容整形医のコメディ映画。
これまた、アメリカなノリ。
当然、お客は来ない。
マイケルの映画は、「バックトゥザフィチャー」シリーズが大ヒットしたが、
それ以外、出す作品、どれも入らない。

ならばと、「グリーンカード」を公開。

映画はいい。なれど、これまたアメリカ受け。
ゴールデグローブの作品賞に輝いただけにお客満足度はいいけど、
少数のお客では・・・。

今年は、低調にもほどがある。
東京進出の足かがりのTBS番組は終わり、興行は惨敗。
やることなすこと、泥沼にはまっている。
100万円のカメラ機材は宝の持ち腐れ、眠ったまま。それはしょうがないか。

本業の映画館だけに、
さらに本腰を入れていくが、どんどん足元を救われていく。
11月には、ブルース・ウィリスの「ハドソン・ホーク」を。

怪盗のコメディ。
ブルース・ウィルスにファンは、
「ダイハード」のようなアクションを期待してるから、
コメディなど見たくない。当然、来ない。

それなら、「私がウォシャウスキー」を公開。

女探偵サスペンス。言わずもがな。来ないです。一刀両断。

1991年は、見事なでに、頭を抱える日々だった。

こうなれば、
1992年正月映画に期待するしかないが、
不安が入り混じる、「ロケッティア」とカーリー・スー」の2本立。

「ロケッティア」は語りたくない。それほど、何で、今更、こんな映画?
ポスター見ても、チープさが漂う。勘弁して欲しい。
でも、「カーリー・スー」はとても作品がいいんです。
9歳の孤児と保護者、そして女弁護士の絆を描く。
ハートウォーミングな感動作。なれど、
案の定、入りも良くなく、正月なのに散々。
「カーリー・スー」の作品の良さだけで救われる。

年を越しても、傷口は広がるばかり。
さらに「リコシェ」です。

製作者はハリウッドの大御所のヒットメーカー、J・シルバー。
主演はデンゼル・ワシントンとジョン・リスゴー。
サスペンスアクションだから派手さがない。
アクション映画好きもなびかい。

では、渋く、硬派で、
「バクジー」を公開。

監督は「レインマン」のバリー・レビンソン。
主演はウォーレン・ビーティと、顔ぶれは凄いが渋すぎる。
カジノを作り上げた実在のギャング王のお話。
そう、ギャンブルにカジノに、日本人、大多数、興味ない。
映画にも、人が来ない。

去年の夏から、公開する映画は、全滅です。
吹きすさぶ荒野を顔を上げて歩かなければいけないと思いつつ、
あまりの逆風に、顔を下向いてしまう。

そんな、うちひしがれるところに、
予期せぬ映画が、遂にやって来た。
「JFK」が現れました。

監督は「プラトーン」のオリバー・ストーン。
主演、ケヴィン・コスナー。
ケネディ大統領暗殺事件の新証言を基に描かれた問題作。
話題になり、上映時間3時間なれど、ヒットする。久々の入り。
長尺で、1日、3回上映なのがつらいが、
映画ファンのみならず、話題につられ。
やあ、久方ぶりの場内の入りに胸を撫で下ろす。
長い、長い、不入りのトンネルの出口にひとすじの光がさしてきた・・・。


その光をたどり、
当時、アメリカTVで高視聴率の「ツイン・ピークス」。
これが、映画化されたのが
「ツイン・ピークス ロラパーマー最期の7日間」
である。
世間は話題沸騰、満を持して公開する。

鬼才、デビット・リンチ監督。
アメリカの片田舎、ツインピークス。
町1番の人気者ローラ・パーマーが死体で発見された。
FBI捜査官が捜査するうち、町の複雑な人間関係、
陰謀の深みにはまっていくという、カルトな映画。
鳴り物入りだったがフタを開けたら、やはり監督のやりたい放題。
お客はついていけない。
一週目こそ、話題で来たが、口コミがさっぱり、凄まじいジリ貧ぶり。
いけませんネ。このような映画は。

他館では、
シャロン・ストーンの「氷の微笑」が大ヒットして、
みな、話題は、シャロンのあそこの○○が見えるで騒然。
こちらは指をくわえているばかり。
とんだ目にあった。

この映画、アメリカから、全世界にも波及に惑わされ、
とんだツケをはらうことになった。
商売としては、まずまずだが、内容がお客を裏切り過ぎては、私はつらい。

穴埋めに、「愛人 ラマン」に手当てする。

15歳のフランス人の少女と中国の青年との愛人関係を描く。
まじめな映画だが、タイトルにつられ、お客は来る。
そこそこのSEXもありがいいのかも。

そろそろ、
決め球をストライクゾーンに入れるような映画を用意する。
1992年、夏公開作は、
トム・クルーズ、ニコール・キッドマンが当時夫婦だった時の共演作、
「遥かなる大地へ」を。

アイルランドからアメリカへの開拓映画。
テーマは古臭いが、ラブロマンスにあふれていたので
二人の人気にも後押しされ、
女性客を中心に、まずまずの入りを見せた。

この流れを、さらに加速して、
ハリソン・フォード主演の「パトリオット・ゲーム」を公開する。

ベストセラー作家トム・クランシーの映画化。
まだまだハリソンが油が乗り切っている頃、
アクションとサスペンス好きな方が多く、結構、お客を集めた。

いい流れになって、
秋には、「1942コロンブス」が散々。

監督は、リドニー・スコット。
アメリカ大陸発見の冒険家コロンブスの伝記モノ。
さっぱり、来ない。
私も、見たくない。映画会社とのお付き合いも大変。

穴埋めの、上記のリドニー・スコット監督の出世作、
「ブレードランナー」のディレクターカット版を公開。

リドニーのこだわり映像の追加版。
「ブレードランナー」は、今では、伝説の映画と謳われているが、
当時は、「ブレードランナー」自体が、さほどヒットしなかったので、
ディレクターズカット版にしても、そら、来ない。甘くない。
一部のマニアで終わった。
でも振り返れば、伝説映画を上映できたのも、いい思い出。

その後の「ペッセメタリー2」も良くなかった。

2年続けて、不調、極わりない。

いざ、1993年の正月映画に期待する。
「永遠に美しく」、「ベートベン」の2本立。

「永遠に美しく」は、「バックトウザフィチャー」のロバート・ゼメキス監督。
主演は、メリル・ストリープ、ブルース・ウィルス、ゴールデン・ホーンという
豪華キャストが、女性の美を追求するあまり、とんでもない事に陥るコメディ。

「ベートベン」は、

セントバーナード犬が巻き起こすハートフルコメディ。
この2本立、正月にふさわしい笑いに包まれて、
予想を上回るヒットする。
久々に、”ありがたい。”の言葉が去来する。
本当に久方ぶりの場内の熱気。

やはり、映画館は、お客様の入りが良薬。
この常備薬が常にあれば、商売ほど素敵なことはないが、
映画という水モノは、全米NO.1の称号を頂いても、日本では
その効力は、お客様も飽き飽きしたのか、そうなびきはしない。

とにかく、能書きは、さて置き、
これで、1993年、出だし、一安堵。

で、
次なる手の作品となるが、これが、いわくつきのマドンナ主演の
「BODYボディ」です。そう、マドンナが初女優作品。

”SEXで人を殺せるか、という、過激なコピー。
老富豪が亡くなり、妻に嫌疑がかかる。その妻と弁護士との関係・・・。
果たして、妻は犯人か?
マドンナが惜しみなくヌードを晒すが、そこそこの入り、
興味本位のお客のみ。
長続きしない。そら、ご明察です。
キワモノ映画の分類されてしまった。
マドンナは、シャロン・ストーンの「氷の微笑」を意識してのことか、
柳の下にドジョゥは二匹はいない。

これで、ケチをつけるのは映画館としては恥ずかしい。

そこで、
ゴールデンウィーク作品は、
本年度アカデミー賞作品賞、監督賞などに輝く、
クリント・イーストウッド監督の「許されざる者」だ。
当劇場では、「アマデウス」、「プラトーン」以来の受賞作品を上映。
いいですね。

硬派な西部劇だから、テーマが重いが、自らクリント・イーストウッド、
ジーン・ハックマン、モーガン・フリーマンなどの豪華共演。
内容も受賞作にふさわしい、人間の側面を見事に描き切った。
手堅い興行もいいが、素晴らしい作品を上映できる喜びは、
この上ない幸せに尽きる。
ありがとう。イーストウッド。

気を良くした事で、
娯楽作を提供したい。

そうです。お待たせししました。
スティーブン・セガール主演の「沈黙の戦艦」を公開致します。

これぞ、セガールの”沈黙シリーズ”、記念すべき1作目。
ハイテク戦艦を武装テロリストに乗っ取られたのをセガールが孤軍奮闘、
戦艦を取り返すアクション巨編。
セガールの大出世作。
ほとんど男性客で、大きな膨らみはなかったが、期待通りの入りを見せた。
なお、セガールは、このヒットで、日本にも認知された。元妻は日本人、
大阪で暮らしていた時期もあり、子供いる。
この情報は、セガールの日本人気の後押しにもなった。

今や、邦題なれど、”沈黙シリーズ”およそ50作以上。
いかに、この「沈黙の戦艦」のインパクトは計り知れないことだろう。
映画館としても、一役買ったのは言うまでもない。
だから、この映画、思い出深い。

さらに調子に乗りたいとこだが、
またもや北野たけし監督主演の「ソナチネ」でケチをつける。

ヤクザの抗争が主だが、アートしまくり。
映画通にはいいが、一般客には、またまたそっぽを向かれる。
たけし映画は、商売にならないというレッテルを貼られた時期だ。

そうこうすると、
1993年、夏休み映画到来。
「わんぱくデニス」を上映したり、「スパーマリオ」と子供向けに特化するが、
他館は、「ジュラシックパーク」や、安達祐実の「REX恐竜物語」、
「クレヨンしんちゃん」の映画化1作目が大ヒットする中、
当館だけが取り残される。
さらに、この年は稀に見る冷夏と雨に見舞われ、夏の風物詩、海水浴の客が
映画館に押し寄せたが、ポッツンと1館だけが閑古鳥。
悲しい。

その流れを断ち切りたかったのが、
お盆公開のシュワちゃんの最新作、
「ラスト・アクション・ヒーロー」であった。

少年の夢によるファンタジーアクションだから、現実味の無さが命取り。
「ダイハード」のジョン・マクティアナン監督だけにアクションは派手、
でも話自体が盛り上がらない。全米では大コケ。
しかし、日本ではシュワちゃん人気頼みで、安定した入りは見せた。。
まあ、こういうこともあるよね。
でも、ごめんね。映画がちょい不出来で。


時に東京出張もある。
ワーナーブラザース配給会社の全国宣伝会議(ホテル代、交通費込み)。
各地の映画館の責任者が一同に会する。
そこで、会議終了間際、サプライズのハリウッドスターが登場した。

ハリソン・フォードである。

「逃亡者」の宣伝で来日していたのだ。
目の当たりにする大スター。本当にオーラを見せ付けられる。
初めてのハリウッドスターを間近に見て、
やはり、世界的大スターの存在感は半端ない。
まざまざと映画スターにお目にかかれて、興行冥利か。

さあ、秋の映画である。
「ラストアクションヒーロー」のシュワちゃんからバトンタッチで、
ブルース・ウィリス主演のアクション映画、
「スリー・リバース」
を公開。

アクションサスペンスだから、アクションは少ない。
少々、カーチェイスはあるが、
やはり、「ダイハード」的なものを見たいのが、ファン心理。
ネームバリューでそこそこ来るが、膨らみはない。

まんだらと、今年ものらりくらり、大きなヒットに恵まれない。
ここ3年は、これだ!という大ヒットの恩恵に与れない。
この世界に身を投じて、順風満杯にきたほうだが、
ゾーンにはまりこんでしまった。
ただ、1年通じて、赤字を出していないのが救いか。

それに甘んじるわけにはいかない。

悪い流れを断ち切れ、
1994年の正月映画を迎える。
「めぐり逢えたら」です。

トム・ハンクスとメグ・ライアン共演のラブストーリー。
日本では、本編上映前にドリカムの「ウィンターソング」のイメージ映像が
オマケ付き。
女性客中心に、カップルと、お正月デートムービーとなる。
華やかな場内、恋物語、明るい兆しが見えてきた。

その余勢を買って、2月後半公開の
「マイライフ」が、さらに火が付く。

ニコール・キッドマン、マイケル・キートン主演の感動作。
余命宣告を受け、お腹の子のためにビデオメッセージを残していく夫。
限られた命を一生懸命生きる家族の絆を描く。
もう、涙なしでは見られません。
場内はすすり泣いています。
お客様の口コミも良く、週追うごとによく入ります。
ロングラン。
正月映画「めぎり逢えたら」から、「マイライフ」と、
二作連続、素敵な作品に恵まれ、
3年間の不入りから雲ひとつない、澄んだ青空のように心が晴れやかに。
心地いい。

と、きたところで、
また試練を神様は試練を与えてくれる。

ゴールデウィーク作品の「カリートの道」。
やりたくない、無理強いの作品。

ブライアン・デ・バルマ監督、アル・パチーノ主演。
マフィアの抗争映画。もう興味も示さないテーマ。
散々の不入り。勘弁してください。
せっかくの前半のいい流れを遮断してしまった。

こうなりや、
「沈黙の戦艦」に続くセガール沈黙シリーズ第2弾!、
「沈黙の要塞」
にアクション映画で望みを託す。

アラスカの石油発掘所を舞台のアクションと思いきや、
環境問題が主軸。おいおい、”沈黙2シリーズ第2弾の触れ込みも
セガールアクションファンを大いに裏切ってしまった。
だって、セガール自ら監督までしてる。早々、天狗になってしまった。
どんだものを食らわせてもらった。
怖い、怖い、興行は、セガールアクションに目がくらみ、この有様。
騙されたお客の怒りを買ってしまった。

その後に待ち受けたいたのは・・・
出ました。いわくつきの作品のお出まし。
「RAMPO」です。

この映画、本来、NHK出身の黛りんたろうの監督で完成させたが、
プロデュサーの奥山和由が、納得出来ず、自ら監督し70%撮り直しての
黛バージョンと奥村バージョンと2作同時公開。
メインは、奥山バージョンで、”劇中のサブリミナル効果”と、
ロビーにオリジナル妖艶香水を流すのが売りで、大々的に話題になった。
その効果もあって、話題好きのお客が結構押し寄せた。
でも、いかんせん、きわもので終わってしまった。
また、奥山と主演の羽田美智子は噂が飛びかっていたので、
愛人を映画の主演に選んだともっぱらの評判だった。

この映画の公開前に大阪で宣伝会議に参加したが、
担当者が、質問をお願いしますと、私に依頼。
黛バージョンには触れないで下さいと、念を押されたが、
反骨新が玉に傷、いや、よくあること。
「黛バージョンが”静”なら、奥山バージョンは”動”ですか?」みたいな質問、
しちゃいました。
えっ!みたいな雰囲気に包まれましたが、
奥山氏はちゃんと正面から答えてくれました。
そこは肝が据わっている。敵も多いはずです。
後に、奥山氏は、松竹の社長(奥山氏の父)解任のクーデーターで、
常務の座と、プロデユーサーの位置を奪われました。
でも、角川映画の角川春樹、この奥山和由と、
いい意味も悪い意味も含め、映画界の風雲児として、
映画界を変えたことは、間違いありません。


お盆には、「マーヴェリック」を公開する。

監督はリチャド・ドナーで、メル・ギブソン、ジョディ・フォスターが共演。
開拓期の西部のギャンブラー物語。
地味なテーマながら、そこそこの入りを見せる。
やはり、日本人には、このネタはあまり受けない。仕方ない。

そこそこに切り上げ、
ニコール・キッドマン主演のサスペンス映画、
「冷たい月を抱く女」を上映。

これが、内容が面白い。
ニコールの美しさが、サスペンスには映え、一層の輝きに満ちている。
私は、この映画に満足したが、入りは、さほどでもなかった。

秋風があたりに吹き込んで、そぞろ歩きの人たちも
映画鑑賞の秋に誘いこみといもの。

そこで、今や伝説化した、タランティーノ監督
「パルプ・フィクション」
を公開する。

カンヌ映画祭パルムドール賞に輝く。
三つの物語が、最後には一つになる。
「レザボアドックス」でタランティーノの才気は光ったが、
これまた、映画マニア受けの内容。
一般人はついていけない。
ブルース・ウィリス、ジョン・トラボルタ、
ユア・サーマン(その後「キルビル主演)も出ているが、
お客もそこそこで、鑑賞後の顔は浮かないのがありあり。

早速、この映画の補強作?に、
渋く、「ギルバート・ブレイク」をつけて2本立に。

この映画、評論家も絶賛。ただし、入りに期待はない。
「パルプフィクション」とこの「ギルバートブレイク」の
最強良作2本で、映画ファンに応えるために。

何もヤケクソではない。
あえて、渋く、渋く、攻めてみたかったのです。
こんなことをするのは、私ぐらいでしょうと自負。

会社の使命は、利益です。当然ですが、
映画館の使命は、
それだけでは振り回されるだけです。

ここは、こうだ!の覚悟は常に持ち合わせていないと、
映画館にいる意味などないではありませんか。
まあ、この行動を許してくれるのは、私の尊敬する常務には感謝しかありません。

周りは、映画館を自分の趣味のようにおもちゃにしてと
思われる方もいたでしょうが、面と向かってはいませんが、
この常務だけは信じてもらえていたことは誇りです。

だから、すかさず、
次は、娯楽作にとって変わります。
タイムコップ」です。

「カプリコン・ワン」のピーター・ハイムズ監督、
主演にアクション界の雄、ジャン・クロード・ヴァンダム。
アメリカでは大ヒットした。
時空犯罪捜査官がタイムマシーンで過去にさかのぼり
難事件を解決するSFアクション。
当時としては、斬新なネタだった。
「タイムコップ」というタイトルもいい。
映画の内容も面白い。ただ、その割には、人はなびかなかった。
これを、ブルース・ウィルスか、シュワちゃんなどが主演なら
日本でも大ヒットしただろう。まだヴァンダムの知名度が弱かった。
それでも、そこそこの入りだったが、
私の映画史に、不思議に残る作品のひとつでもある。

今でも、リメイクしたらいけそうな気がするが・・・。

そうこうもすると、師走が近づく。
1995年正月映画に持ってきたのが、
トム・クルーズ、ブラッド・ピット
豪華二大スター共演の
「インタビューウィズ・ヴァンパイア」のお出ましである。

吸血鬼の妖艶ホラー。
現代モノで、このお二人の共演映画なら、大ヒット間違いないのだが、
テーマがテーマ。
ふたりの演技がのりのりだが、お客はついていかない。
ホモセクシャルな匂いプンプン。
さほど、受けず、あまり来なかった。
でも、これまた不思議に忘れなられない映画である。

すかさず、米米クラブの石井竜也の初監督作品、
「河童」を上映する。

意外にウケた。そこそこお客は来る。
石井竜也監督、当時付き合ってた南野陽子も出演しているから
その話題性だけで。


ならば、
もっと、当たる映画を持ってくる。
シルベスター・スタローンとシャロン・ストーン共演のアクション映画、
「スペシャリスト」である。

この二人の組み合わせ。
お色気ありのアクション映画が売り。
確実に見込める映画である。
ただ、内容が薄い。アクションもしょぼい。
二人のギャラだけで製作費がほとんど、アクションには手が回らないか・・・。
結構、最初はお客様も来たが、毎週、ジリ貧。
この手の映画は、派手にぶちかましてくれないと、お客は来ない。

と、
今ままで、この支配人奮闘記、書き連ねてきましたが、
興行の酸いも甘いも、堪能してきましたが・・・
遂に、この興行界に、
”黒舟”が来航しました。

それが、
シネマコンプレックス、”シネコン”の誕生です。

日本では、海老名を手始めに、
1995年本年、
3月下旬に、県内に初めての進出。
近距離の桑名に、ワーナーマイカルシネマズ桑名の開館です。

来るべき日が来たのです。
単館の映画館が主流だった時代の
終幕を告げる号砲が鳴らされたのです。


そうは言っても、
早々とお手上げですとは行きません。
シネコンとの戦いの始まりです。
巨大な大男に素手で戦うみたいなものですが・・・。

不安なまま春休み映画の公開。
ここから、市内の映画館が、シネコンの影響により、どれだけ及ぼすかは
固唾を呑んで、見守ることになります。

まずは、「ガメラ大怪獣空中決戦」の公開です。

これは、伝説の映画として今も語り継がれています。
「ゴジラ」などの怪獣映画の作風を根底から変えた作品です。
何故なら、撮影方法が俯瞰ではなく、人間目線での撮影を主軸に置き、
驚愕のリアル感が増したのです。(今では、この撮影方法が主流)
ストーリー展開も子供向けではなく、ただの戦いにとどまらず、
世相も取り入れられ、何故、ガメラが誕生したのかも、ちゃんと描かれ、
2016年作品「シン・ゴジラ」で監督した樋口真嗣が、
当時は特撮監督として関わり、「デスノート」の金子修介監督で、
画期的なガメラ映画まさに大人向けの怪獣映画が誕生したのです。

春休みとしては、まずまずの稼動を見せましたが、
「ガメラ」の客層は子供中心でシネコンの影響はわずかでしたが、
他館では、洋画のメインで「フォレスト・ガンプ一期一会」を上映してましたが、
その映画では、入りも、およそ2割減に陥っていました。

シネコン開館出だしで、この有様ですから、
シネコンがさらに加速度的に認知されれば、
さらに影響は計り知れないものになるだろうと推察されました。

ここから、他館も含め、厳しい興行を強いられる戦いに突入しました。

次作は、不安と戦いながら、「レオン」の公開。

これも伝説の映画。
「ニキータ」で脚光を浴びたリュック・ベッソンがハリウッドに招かれ、
ニューヨークを舞台に凄腕の殺し屋レオンと、
家族を失った12才の少女マチルダと共に生きるスナイパーアクション。
これが、受けた。
口コミがさらに火をつけた。大ヒットまではいかないが、
映画ファンを虜にした。

私は、この1作でも良かったが、これも今でも伝説の映画、
岩井俊二監督の「ラヴレター」を付け、2本立とした。

私がリスペクトする岩井俊二作品の長編映画、第1弾である。
手紙の誤送によるきっかけで、亡くした彼の想い出をたどる・・・。
出来も素晴らしく、岩井俊二ブランドの礎を築いた作品でもある。
この2本立、妙な組み合わせではあるが、
あえて、シネコンにはない差別化を図るためもあったが、
今となっては、
洋画、邦画のありえない名作の2本立、
私が映画好きならではの、とてもとても想い出深い映画の組み合わせでした。


シネコンの数字とにらめっこしながらもゴルデンウィーク作品が待ち構えている。
キアヌ・リーブスとビートたけしが共演した、
「JM」
である。

未来を舞台に、脳に埋め込まれた記憶装置によるSFアクション。
これが、聞きしに勝る、とんでもなく面白くない
やってられない。お客も来ない。よく、おわかりで・・・。
2週目で即座に、他館で大ヒットした再映で、
キアヌの「スピード」を付け、

キアヌ・リーブス大会にしてみたら・・・

これが、膨らんだ。
いや、「スピード」の力はまだ衰えていない。
逆に「JM」がオマケになってお客が来た。

もう、このあたりから、シネコンの影響で月ごとに数字を落としていたが、
この2本立の組み合わせで、いい感じ。
でも、心の隅には、1年後には、他館も含め、
市内の映画館は大変なことになることは容易に推察できた。

それでも、興行は続けるしかない。
玉砕覚悟か。

そんな気持ちにさいなまれつつ、
これまた、名作に出会えることになった。
「ショーシャンクの空に」である。

何も言うまでもなく、これまた伝説の映画である。
ありがたいことに、今年は、豊作の映画に巡り合う。
この映画を語らずして、映画を語るな!です。
刑務所で知り合った二人の奇跡の物語。
地味な内容なので、たぶん、全然、お客は来ないと思ってはいたが
わかる人はわかる、映画通がなびいてくれる。
そこそこの入りを見せる。
いくらいい映画でも当たらなければ、誰の心にも届かない。
この映画、ヒットまでいかなくても、
今なお、映画史に刻まれているのだから、私も当たり年。
これぞ、興行冥利。
何度も、この手記に出てくる”興行冥利”。
映画館に身を置く幸せは、ヒットすることが大前提だが、
やはり、映画の中身。
「レオン」、「ラヴレター」、「シャーシャンクの空に」、
やはり、心地いい。
映画、万歳ですネ!

で、
夏の初めに、今更に「若草物語」を公開。

名作小説、5度目の映画化。試練に立ち向かう四姉妹の成長物語。
はい、そうです、全然、お客は知らんぷり。
私も知らんぷり。お付き合い映画です。仕方ありません。

えらい、余裕ですね。
はい、そうです、後に控えるのは
「アポロ13」があるからです。

アポロ13号、打ち上げ後、爆発事故により、
帰還するための必死の救出作戦を描く実話の物語。
ラストが、とんでもなく感動的、拍手喝采。
おなじみトム・ハンクス主演。

大ヒットする。
夏の興行を牽引するが、だが、シネコンの力は開館して4ヶ月。
月ごとに、とんでもない力でなじふせられる。

他館も、「ダイハード3」、「キャスパー」、「ウォターワールド」、
「学校の怪談」、ジブリの「耳をすませば」など、結構、お客は来るが、
見込みまではいかない。
ファミリー向け、子供向けは、2割減程度が、
大人映画は3割減以上の落ち込みである。

開館当初の春休みの影響は、さほででもなかったが・・・
夏休みとなれば、ある程度の作品が揃えば、
歴然とした数字で示される、突きつけられる。

暗雲が大きく立ち込める。
わかってはいるが、対比すれば明確にわかる。
ここまでいける成績の予定が、下手すると4割減か。

もはや死活問題。
このあたりから、もはや市内で2館が閉館している。

前に進むしかない。
そう、崖があるのをわかりつつ、進むのはつらい。
でも、進む。
次の作品は、「マイ・フレンドフォーエバー」である。

HIVに感染した少年と彼の為に治療法を見つける為に尽くす少年との友情物語。
何の期待もなかったが、若い女性の客層でヒットする。
たまにま、こういう事もある。


秋前線は、「ジム・キャリーはMr・ダマー」を公開。

大ヒットの「マスク」で名を挙げたジム・キャリーの最新作。
男二人組みのヘンテコ珍道中ロードコメディ。
「マスク」が面白すぎて、物足りない。ある程度はお客は来るが、爆発力はない。
アメリカンジョークムービーは、日本では無理ですネ。

ならばと、
「ジュラシックパーク」の原作者マイケル・クライトンの映画化、
「コンゴ」を公開する。

アフリカの奥地で起こった絶滅の危機とは?中身はゴリラのお話。
ポスターはこけおどし、何も面白くもない。来るわけがない。

早めに手を打つ。
「スピーシーズ 種の起源」である。

まあ、「エイリアン」みたいな、エロチックなSFホラー。
これが、期待などなかったが、そこそこにお客は来る。
やはり、この手のジャンル、好き者が多い。

「コンゴ」、「スピーシーズ」と、消化不良。

憂いながらも1996年正月に突入。
シリーズ最新作、「スタートレック ジェネレーションズ」、

もはや、このシリーズ映画化7作目。
記念すべき1作目は、当館で公開したが、それ以後は関わることはなかった。
1作目を頂点に凄まじいジリ貧で、6作目で完結したが、
この新シリーズでは、新旧のメンバーが出演が売りだけで、目新しさも何もない。
併映は、「クルーレス」。

女の子の学園青春ムービー。
アメリカでは受け、主演女優は売れましたが、日本ではさっぱり。

この2本立、弱い組み合わせ。力ない。
また、正月前の暮れに、市内で前代未聞の大雪に見舞われ、
雪かきに一日中に追われた
つらさも今も覚えているが、とんでもない不入りに
映画館は氷に凍てつき、フリーズした。
誰も、レンジでチンしてとも言えない場内は数人ほどのお客も凍えてた。
すみません。

シネコンの影響も、ここまで不入りでは、対比のしようがない。

こうなれば、アクション映画頼み。
またもやセガール映画頼み、沈黙シリーズ第3弾、
ただし、沈黙の○○は付けず、これは賢明。
タイトルは、「暴走特急」の公開をする。

戦艦、そして要塞、今度は列車が舞台。
武装集団に乗っ取られた暴走する列車でのアクションが炸裂する。
セガール映画、前作の「沈黙の要塞」に比べれば、いい出来。
まだまだ人気あるセガール。男性客で埋まる。
振り返れば、ここまでがセガール映画の頂点だった。
後は下降。
今も尚、沈黙シリーズを多作されるのは、世界トータルで見れば
まだまだ商売になるし、セガールのDVDの人気も衰えていないのです。

春休み映画には、「ジュマンジ」

ゲーム盤を始めると、それが現実となって襲い掛かってくる。
フンタスティックなSFXアドバンチャー。
ロビン・ウィリアムスの家族が不思議なゲームにより、夢のような
世界にはまり込んでいく。これがウケた。
他館では、ライバルの「トイストーリー」「ベイブ」もヒットしていたが、
これも追従するように頑張った。

その後は、これまたナイティナインの映画デビュー作、
「岸和田少年愚連隊」を上映する。

「パッチギ」などでおなじみの井筒和幸監督。
ナイナイの二人新人を主演にし、岸和田を舞台にガキどもとチンピラの格闘を描く。
今や、知る人ぞ知るか、ある意味の伝説の映画?ナイナイ、はじけていた。
入りはさほどもでもなかったが、何故か印象深い。

その後は、「白い嵐」など、どれもダメで、
6月末の「12モンキーズ」に賭ける。

ブルース・ウィリスとブラピの共演が売り。
未知のウィルスで人類滅亡の危機を防ぐため未来からの男のSFサスペンス。
監督が奇才のテリー・ギリアムだから、話が難解。
せっかくの二人の共演も台無し、お客もついていけない。
口コミなどはさっぱり、娯楽作ではなく、監督の趣味映画。
あ~、つらい、つらい。しょうもない。

ここから巻き返したいと、
夏休み映画、前作で好評を博した「ガメラ」の第2弾!
ガメラ2レギオン襲来」に一縷の望みを託す。

前作同様のスタッフで本作も力が入っていたが、
あまりにも前作が良すぎて物足りなさを感じるのは贅沢なのだが、
人の常。もっと、もっと、凄いものを見せてくれか?
まずまずの入りをみせてはくれるが、
「ゴジラ」ブランドではないから、早くも失速した。

その後も、「フリッパー」、アニメの「スレイヤーズ」でお茶濁し。
9月には、岩井俊二の「ラヴレター」に続く最新作、
「スワロウティル」で挽回したい。

未来の架空都市、円都イェンタゥンでの偽札をめぐる若者群像。
主演は三上博史、Charaが演じるボーカル役のイエンタウンバンドの楽曲が
ヒットし、その相乗効果もあって内容とは裏腹にお客を集める。
ただし、個人的には、
岩井俊二作品では唯一、好きではない。


ここは、アクション映画で切り込む。
「エグゼクティブ・デシジョン」となる。

カート・ラッセルとセガール共演のふれこみだが、
戦艦、要塞、列車、遂にジャンボ機ハイジャックが舞台なれど、
これが、セガール、早々と死んでしまうという意外な展開。
後は、カート・ラッセルの孤軍奮闘アクション。
これが面白い。
お客もアクション好き、売りのセガール映画に騙されるが、
内容がいいので、満足度で詐欺まがいを乗り切る。
この手の宣伝方法、配給会社やるから、ちゃんと見ぬかないととんだハメになる。
まずはセーフ。ごめんね、セガールファン。

晩秋には、
「RAMPO」のコンビ、奥山和由製作、、羽田美智子主演で
「大統領のクリスマス」のお付き合い。

ニューヨークオールロケ。女性3人のオムニバス物語。
もう、これ、語りたくない。

こうして、1996年を終わろうとしているが、
シネコンの影響は深刻化してきた。
それでも1997年の正月映画はやって来る。
「ピノキオ」である。

名作童話の実写化。
「ベイブ」のスタッフが手がけたファンタジー。
家族向けなのだが、子供がなびかない。
「クレヨンしんちゃん」みたいなハードさがないと、
良心的で、文科省が喜びそうな作品には見向きもされない。惨敗。

早速、正月映画にてこ入れ。
急遽、「評決のとき」を上映。

映画はすこぶるいい。映画通にはたまらない作品。
あまりにも硬派なので、限られた客層。お正月に法廷サスペンス、そう見たくない。

だから、またもやセガール映画頼み。
「グリマーマン」です。
「沈黙の戦艦」以来、セガール全作、関わった。

セガールが猟奇魔殺人事件を追う刑事アクション。
これは素直に奇をてらわず、サスペンスとアクションの融合。
まずまずの合格点の出来栄え。
セガール映画、まだ少しは役に立つ。
正月映画の不入り挽回には、到底及ばずだが、セガールさまさま。

ここから、大きな転機を迎えることが起こる。

他市のシネコン開館以来2年。その影響により、次から次へと
市内の映画館が次々閉館となっていく中、
近々、東宝専門館3スクリーンの映画館が閉館することになった。

もはや、駅前の3スクリーンを構える映画館と、当館のみとなる。

そんな情報の中、
意外な電話がかかってきた。
日本を代表する映画会社、東宝からの電話だった。
先方は、”この日時にお伺いしますが、いかがですか?
用件は当日にお話させていただきます。”とのこと。

待ち合わせ当日、
担当者がみえてのお話に内容は、予想外な依頼だった。
”そちらで、私どもの邦画を受けてもらえませんか?”とのこと。
要は、今後、東宝邦画専門館としてやって欲しいと。

このいきさつは、こうらしい。
まずは、東宝は、私どもの本社に話を持っていったが、
会社を実質、動かしている常務が、
こう答えたそうだ。

”彼の意向を聞いてからにして欲しい。”と。

この話を聞き、私は常務の意を汲んだ。
たぶん常務は、私が洋画中心ではないと、
この会社を退社するだろうと・・・
邦画専門では、彼のやりたい事は出来ない。
プログラムは東宝邦画の規定路線を走ることには耐えられないだろうと・・・。

私はバカだが、
とんでもない、バカでもない。

シネコンの影響で、先が見えていても泥舟から飛び降りることもしたくはなかった。
沈没船になっても、それで終焉で、それでいい覚悟は出来ていた。
だから、シネコン開館以後は、
ひとつひとつの映画を公開するたび、
このような映画に関わることはもうないだろうと作品ごとに思ってきた。
終末期を迎える心境ではあった。

たぶん、常務は、私が東宝に断るだろうと思ったのだろう。
東宝も、それを覚悟してきたような・・・、
私は答えた。
「やらしていただきます。」と。
即答であった。

もう十分である。
常務が私の気持ちを考えてくれたことを感謝したい。
この信頼関係が、
今まで、頑張れたこと、休みもほぼ取らずにこれたことなど含め、
がむしゃらにこれたこと。

私のやれる事は、ここで、常務の意気に応えるためには、
この映画館を存続させることへの使命感に変わった。
これは、常務との一体感でもある。

このいきさつは、一生、忘れられない出来事だった。


1997年3月、
春休み映画の不動の国民的人気アニメ、「ドラえもん」から
不慣れながらヨチヨチ歩きの東宝邦画の旅路の始まりとなった。

私の取り巻きも、「えっ、東宝邦画専門館を?」と、みな驚いていた。
私情はいらない。突き進むのみ。

さあ、
初めての「ドラえもん」。
シリーズ最新作「ドラえもん のび太のねじ巻き都市冒険記だ。

私と、ドラえもん。意外な組み合わせ。
摩訶不思議。そう、テレビでも見ていないのに・・・。

続いて、シリーズ最新作
「クレヨンしんちゃん」


勝手違う、連続お子様映画には戸惑いはありましたが、
そこは割り切る。

いくら「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」に興行力があれど、
それまで上映した映画館にイメージが植えつけられている。
そこを、ひとたび映画館が変われば、その上、洋画が主体だった映画館、
大人対象の映画ばかりで、子供客がついているわけでもなく、
そう、たやすく流れはくるわけがない。

天下の「ドラえもん」といえど、タカはくくれなかった。
いや、危惧した。
惨敗するのではないのだではないだろうかと・・・。

だから、宣伝は半端なく取り組んだ。
新聞広告に頼らず、地道な宣伝方法、
選挙で言えば、”ドブ板選挙”みたいな方法。
保育園、幼稚園、小学校にくまなく割引券配布の手間隙かかる時間を費やす。
この作業、洋画にない手法。
視聴覚教育連盟にかけあったりと、めまぐるしい日々。

その効果もあってか、
結果、いい成績を収めることが出来、ひと安心。
せっかくの東宝の依頼に応える答えは数字しか表れません。

ここから、東宝の上映作品を想い出深い作品を列挙します。
1997年に発生した神戸連続児童殺傷事件時に、
シリーズ作の「学校の怪談3」の公開には映画会社も
躊躇した公開でもあった。


今ではメジャーな三谷幸喜の記念すべき初監督作品の
「ラヂオの時間」も上映しました。
まだ、三谷ワールドが浸透せず、苦戦を強いられた1作。
ただ、才気はほとばしっていました。


1988年正月映画は、
子供時代に見た、シリーズ最新作「モスラ」を上映するもの感慨深い。
その時代の「モスラ」初期作は、ザ・ピーナッツの
♪モスラや、モスラ~♪でしたが、

やはり、「モスラ」は、何年経ても、よく入る。
その当時、流行った”たまごっち”(懐かしい)が、
”モスラのたまごっち”を売店で販売し、
よく売れましたネ。


そして、1998年、1月31日公開作品に
あの伝説の映画、ホラー映画邦画No.1と呼ばれる、
「リング」の登場です。

これは2本立で、「らせん」が付いていましたが、
「リング」のみが、クローズアップされました。
そう、”貞子”を生んだ、恐怖の画期的な映画の誕生でした。
ただし、この1作目は、大きな当たりはなく、ヒット程度でしたが、
口コミ効果もあり、上映終了してから話題になり、ビデオ化で火が付き、

そして、
1年後の1999年公開の「リング2」は大ヒットに導きました。
貞子が、日本中に浸透しました。大入り満員。

この「リング2」も、まずまずの合格点の出来でしたが、
あまりにも1作目の「リング」が良すぎました。
この「リング2」は、リング同様、中田監督が努めましたが、
監督独特の俯瞰撮影による怖さもあったが、いかんせん鮮度は落ちていた。
やはり、「リング」を未だ、邦画ホラーでは、この作品を超える作品はありません。

匹敵するのは、清水崇監督の「呪怨」だけでしょう。
また、その翌年2000年のリングシリーズ3弾の「リング0」は、

監督が変わって、内容も伴わない。目を覆うような惨敗。
これで、「リング」シリーズは終焉を迎えました。

ただし、幾年を経て、貞子ブランドは確立していたので、
他社で、「貞子」という、ド直球タイトルで何作も製作されました。
残念ながら、大きなヒットはいきませんでした。
でも、”貞子”のイメージは永遠に映画に刻まれました。


年代は前後しますが、
1998年10月31日公開には、人気テレビドラマの映画化
記念すべき1作目、「踊る大走査線 THE MOVIE」」
爆発的な大ヒットしました。

言わずもがな、今さらに説明はいらない映画です。
アニメでもなく、動物ものでもない映画が、ここまで大ヒットするとは
フジテレビも想像出来なかったでしょう。
内容はさて置き、邦画映画史に刻まれる作品に関われたこともいい想い出。

2000年お正月映画に、ゴジラシリーズ23作目、
「ゴジラ2000ミレニアム」です。

私が1960年代、中学時代に授業後にひとり、
平日に「ゴジラvsメカゴジラ」を見たのをとっかかりに、
そのごの映画に病みつきになっていく、
最初にインパクトをあたえた「ゴジラ」を上映するのも・・・凄い歴史。
感慨深い。

2000年、8月、「踊る大捜査戦」に続く織田裕二主演の
「ホワイトアウト」
です。

映画の想い出より、
当時、市内の駅前がゲリラ豪雨で映画館が浸水。
3日間ほど営業できず、また、私の愛車はエンジン浸水で廃車。
踏んだりけったり、変な想い出です。

フジテレビと東宝、この関係は、
今でも続くタモリのテレビ番組の初の映画化にも。
今も続く人気シリーズ。
「世にも奇妙な物語」です。

テレビは人気はあるが、
映画としてお客からお金を取るとなると、
映画サイズに合わせて壮大でスケルアップした世にも奇妙なお話にしないと。
チープ過ぎた。そう、たやすくお客は来ない。案の定でした。

2001年は、人気アニメシリーズ、夏休みに
「劇場版ポケットモンスター セレビィ時を超えた遭遇を。

本作は第4作。でも「ポケモン」は強い。
満員御礼である。
東宝の子供映画では「ドラえもん」「ポケモン」は横綱であることは
間違いない。

2001年秋、「陰陽師」も懐かしい。

大した期待も無かったが、ヒットした。
これで、狂言師の野村萬斉がメジャーになりました。

2002年お正月映画には、定番化されたゴジラシリーズ。
「ゴジラ モスラ キングギドラ大怪獣総攻撃」です。

いや~、この三大怪獣、いいですネ。
何度もお色直しでの出演です。東宝の顔ですからネ、ゴジラさん。
その上、モスラ、キンギドラか。たまりませんネ。

また併映に、人気テレビアニメ映画化1作目の
「劇場版とっとこハム太郎 ハムハムランド大冒険
付いていて、

この2本立、最強。ゴジラ層に限らず、
この「とっとこハム太郎」が幼児までも導き、
たくさんの家族連れで場内はにぎわいました。

2002年5月には、
フジテレビドラマの映画化、
「ナースのお仕事ザ・ムービー」
を。
これまた懐かしい。

各局、何でも人気ドラマを映画化の波は未だやまずだが、
この時代も、ノリノリ、でもお客は来ます。

宮部みゆき原作、森田芳光監督、
中居正広主演の「模倣犯」

森田監督なのに、切れ味もない。だからではないが、お客も来ない。

「永遠のゼロ」「ALWAYS 三丁目の夕日」などのヒットを生んだ、それ以前の
山崎貴監督の2000年の「ジュブナイル」に続く第2弾。
「マトリックス」を意識したCGアクションムービー、
2002年夏後半の「リターナー」です。

金城武が主演では、お客は呼べません。
内容もさしたることもなく、アクションも月並み。
でも、山崎貴監督の心意気、試みは買います。

伝説の「トリック」の第1弾、

人気テレビドラマの映画化。この1作目、大当たりはしなかったが、
その後、一人歩きして話題作となり、シリーズ化された。


東宝邦画、
当たらない作品も多々あります、
でも、我慢です。乗った船です。
「リング」、「踊る大走査線」みたいに、大バケがありますから・・・。

2003年正月映画、「ゴジラvsメカゴジラ」の後に、1月18日公開、
私が上映した東宝作品の中で1番、思い入れのある作品が
「黄泉がえり」です。

「月光の囁き」宮崎あおい初主演「害虫」の塩田明彦監督の
初の商業映画作品です。名匠、犬童一心も脚本に絡んでいるのは豪華。
ベタな内容ですが、塩田監督の腕によることが多く、
柴崎コウの主題歌「月のしずく」も、ラストも大いに盛り上げ、
出だしは良くなかったのですが、口コミが凄く良く、
週追うごとに、膨らんでいきました。
この映画、東宝作品に関わって、1番、大好きです。

2003年5月、「あずみ」です。

インディーズ映画の画期的なアクション「VERUSU」で脚光を浴び、
遂に、メジャー東宝からお声がかった北村龍平監督が見せる、
斬新な映像方法を駆使した殺陣アクションの数々は、唸らせるものはあるが、
これで、お客が飛びつくような話ではない。
個人的には好きなジャンル、頑張った映画と言えよう。

2003年晩夏、「ドラゴンヘッド」。

妻夫木聡、神田沙也加、山田孝之、藤木直人共演。
人気コミックの映画で鳴り入りものだったが、大コケ。
全編ダークに彩られ、物語も何も面白くもない。

2004年1月、秋元康原作の「着信アリ」は、
「リング」に負けまいと携帯ネタの恐怖映画。

柴崎コウの踏ん張りで、一応、そこそこの入りを見せる。
三池崇史監督なれど、そう怖くない。

2004年5月に、原作の大ヒットを受け、映画化。
それが、
「世界の中心で、愛をさけぶ」です。

日本中が、”セカチュー”ブーム。話題席巻!爆発的大ヒット。
森山未来、長澤まさみのシーンがお涙、場内はすすり泣く。
ハンカチなしでは見られませんか・・・。
監督は「GO」の行定勲監督。
平井賢の主題歌「瞳をとじて」も大ヒット、
興行成績は、その年の実写映画NO.1映画になりました。
しかしながら、当館では、
その当時には、県内の周りに、桑名は手始めにもはや三つのシネコン出来てて
そこにはさまり、ジリ貧状態。
この映画、カップル映画ということもあり、低学年映画ではないから、
大半のお客シネコンに流れていきました。
当館だけが、”セカチュー”ブームには取り残されていました。

これは、もう決定打でした。
喉まできたナイフがズブッ!と音を立て、
トドメを刺された感じで、シネコンの大ヒットの喧騒を横目に、
既存館の時代の終焉が近づいてきました。

その頃は、県内の映画館のほとんどがシネコンにより、
どんどん閉館に追い込まれていました。
この市内では、当館と、駅前の3スクリーン1館だけとなっていましたが・・・

遂に、遂に、その日が来ました。
2004年11月に、
市内駅前に、109シネマズ(9スクリーン)が進出、
オープンする運びとなとなりました。
そのことは決定打でした。
結果、駅前の映画館も、
2004年6月末をもって閉館することになりました。

残るは、当館のみか・・・。
ここで当館も、早々と終止符も打つのも考えました。
シネコンという巨大軍艦の前に、
野垂れ死には目に見えていましたから、
駅前の映画館同様に閉館を選ぶのか・・・

本来なら、私の尊敬する本社の常務と、
今後の対応を相談するのですが、
残念ながら、3年ほど前に60代にして亡くなっていました。
(当時、亡くなった後で知った話ですが、常務は周りに、自分が死んだら、
彼は会社を辞めないかと危惧していたそうです)。

れこそ信頼関係を構築していた証しかあえりません。
いや、”絆”と言うべきでしょうか。
その言葉は、今も熱く胸に刻まれています。
だから、辞める選択肢など一切、ありませんでした。

この映画館を最後まで見届ける。
この覚悟は、私を最初からずっと自由にまかせていただいた、ありがたみに
応えるのは、どこまでも、映画館で戦うことでした。
敵前逃亡はイヤでした。

だから、
私の前途多難な判断を決断しました。
それは、閉館となる駅前の映画館を借りることでした。

市内でシネコンオープンするのが決まっているのに、
その間近での既存の閉館となる映画館をお借りするという、
無謀な計画を立ててみました。

その映画館を経営する大手鉄道会社との交渉は、
先方も、映画館の中にテナントとの兼ね合いもあり、
渡りに船にみたいな感じで、
とんとんと話は進み、条件も折り合いもつき、2スクリーンを
お借りすることになりました。

この話は、本社の承諾を付けてのことでしたが、
私の知人などは、
”負け戦は目に目ている、火傷程度では済まない、辞めな。”の
意見が大半でしたが、私は、あえて玉砕覚悟の心境でした。
それまでも、やるとなったら、すぐやる!が信条でしたから、
映画人性のけじめを、自ら刻みたかったのです。
すごく、綺麗ごと思われるでしょうが、自分のケツは自分で拭く。
だから、赤字が出たら、私が自ら補填する覚悟でした。


そして、2004年、7月18日。
駅前の閉館した既存館の2スクリーンをお借りして、
東宝との契約も継続するお墨付きもいただき、新たな旅立ちとなりました。
「ポケモン」最新作と、「アキラ」の大友克洋アニメ「スチームボーイ」の
2作品です。

「ポケモン」は相変わらず根強く、安定した力を見せるが、
大友新作のアニメは、惨敗。もう、「アキラ」のような時代ではなかった。

その後は香取慎吾主演で「忍者ハットリくん THE MOVIE」」、
「ウォターボーイズ」で名を挙げた矢口史靖監督の「スウィングガールズ」、

ときて、
極めつけは、「今、会いにゆきます」です。

これは号泣ものです。
”セカチュー”に続いて、本作は大ヒットを記録、
主題歌のオレンジレンジ「花」も大ヒットし、
乗りに乗っ行きたいところですが・・・
暗雲が早々と垂れ込みました。

11月後半の宮崎駿監督の「ハウルの動く城」では、

単独かと思いきや、109シネマズにも拡大で上映させるとのこと。
ニューアルオープンして、早々、4ヶ月。

これで、周りは、そら見たことことかいなの目。
でも、漕ぎ出した泥舟は、いや難破船は、
さまよい朽ち果て沈むのか・・・。
2005年。春。
東宝作品は遂に上映できなくなりました。
もう、メジャー作品は出来ない。

残された道は、唯一の道に活路を見出すしかありませんでした。
東京主体のミニシアター系の作品にシフトしなければいけない。
今まで、一度もミニシアター系の作品とは、ほぼ無縁だったから・・・
ただし、この実小説の1ページ、第二章のラストに書きましたが、

さかのぼれば26年前。
1982年、
この興行の世界に身を投じて、3年ほどに、
とても、無謀な企画をしています。
高尚な映画の5本立を敢行しました(2週間上映)。

ウッディ・アレンの「マンハッタン」、ハル・アシュビー監督の「チャンス」、
若きメリル・ストリープ主演の「フランス軍中尉の女」、「ジェラシー」、
ローバート・レッド・フォード監督「普通の人」の5本立。



*そのことは、改めて、もう一度、ここに記します。

一般人が、あまり見ない、今で言えばミニシアター映画系。
ただ映画マニアにはたまらない上、
1日中、全作見ても、同料金という破格。
ただし、興行を預かる者には、負け戦も同然か。
当時、今、思えば、よく会社も、この試み、許してくれたものだ。

でも、映画館の役目は、やはり商売が先にたつが、

心意気も見せることも、
映画館の役目というのもオーバーだが、

映画館の今後の役立つと、若造のくせに、思っていた。
それが、その心意気が、
およそ20年以上経って、その”答え”が出るとは、
知る由もなかった・・・。
20代の時に、それを、未来を予測してないが・・・
50歳過ぎて、その心構えが、実行された顛末は、
この実話物語の最終章を飾ることになる。

*以上のように、書かれてあります。


そうです。
その時の気持ちが、今に生きてくるのです。
でも、それは、新たな開拓の前途多難な道に立ち向かう試練の道のり、
それも過酷で厳しい。
そこから、ミニシアター映画専門館としての試行錯誤の日々が始まる。

<続く>

  第一章・第二章  第三章  第四章  最終章

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制作:chuei.jp
四日市中映シネマックス

STAFF: Setuo Watanabe  Namiko Tati  Tiaki Kobayasi  Mika Tutui
THANKS: Yasuo Itou  Yosiyuki Oota  Hiromitu Ootuka  Turukiti Suzuki  Tosimizu  Miki Nakamura