「場末の映画館には猫さえ来ない」

   =場末の映画館支配人が語る30年雑記
          
   <第章・加速する映画館生活>


フジテレビ番組、タモリの伝説番組「笑っていいとも」が始まった年、

1982年の夏興行が始まる。

それは学生時代に見た「ロッキー」のシリーズ第3弾、
「ロッキーⅢ」である。

夢のようである。
学生時代、リアルタイムに感動し、
映画に酔いしれた時代を飾ったひとつに「ロッキー」がある。
シルベスター・スタローンが映画会社に脚本に認められ、
自ら、監督・主演を条件に映画化にこぎつけた、いわくつきの低予算映画。
”エイドリア~ン!”と叫ぶラスト、バックに主題歌が流れる。
もう感動の極み。
この映画のシリーズを、我が映画館で、上映できるシアワセ。

見る側から、上映する側に。感慨深い。

でも、浸るヒマはない。余裕もない。
商売として、成り立たせなければいけない立場、
現実が先に立つ。

入りはいい。やはり、「ロッキー」、ブランドだ。
内容は1作目を超えることもないが、
スタローンの監督の実績は伊達じゃない。
確実に観客を感動に持ち込むストーリー展開は映画を心得ている。
のし上がったきただけに、力強い。
「ロッキーⅢ」は、作品内容と相まって、大成功な成績を収め、
そして、夏後半には新たな映画で波状攻撃をかけていく・・・。

その作品は、
伝説カーアクション映画「バニシングin60」のHB・ハリッキーが、
前作と打って変わって、大予算を賭けて、主演・監督のカーアクション映画最新作、
「ジャンクマン」と、「グローイングアップ・ラストバージン」の豪華2本立と
思うでしょうが・・・、そんな裏には、落とし穴がある。

「ジャンクマン」は、「バニシング・・・」の大ヒットの余裕か、
より、制作費はふんだんで、カーバトルも派手だが、
前作のように、緊張感も、疾走感がない。
ただただ、車をジャンク、壊しているでけ。
そうじゃないんだ!カーチェイスを見たいんだ!
前作のインディーズ映画のような必死さが垣間見れない。
「バニシングin60」で成金になった、HB・ハリッキーの無様な映画。

しかも、併映の「グローイングアップ・ラストバージン」は、
名ばかりで、本家とは違う、まがいモノ。
タイトルを拝借しただけのもの。お恥ずかしい限り。
で、なんで、こんな映画するの?と、問われれば、
「ジャンクマン」になびいて、このまがい物作品が付いてきたのです。
お許し下さい。
たまに、こうなるハメにもある、興行界のつらさよ。

やっぱ、お客は騙されない。見抜く。
1週間は確実な動員は見せるが、失速が早い。
要は、口コミが悪いのだ。

このような時は、早めに打ち切って、信用を勝ちとらなければならない。


洋画館であるが、邦画のオファーも多い。
「疑惑」と「凶弾」の2本立。

「疑惑」は、松本清張原作、名匠・野村芳太郎監督作品。
岩下志麻と桃井かほりが裁判で激突サスペンス法廷劇。内容はいい。
「凶弾」は、船をジャック事件の実話の映画化で、石原プロの後押しの初映画の
石原良純主演の硬派な作品。
両作とも、想像通り、振るわない。
このジャンル、興行は厳しい。

こうなりゃ、お得意の名作で勝負に出る。

長尺4時間の永遠不滅の映画の王道のお出ましです。
「風と共に去りぬ」である。

今回は、新たに映像加工したニュープリントでのお色直し。
この作品、何度もリバイバル上映しているが、
映画史上、キングのひとつ、
やはり、強い。年配者のこの映画のファンは根強い。
最低限の安定の入りを見せる。


この秋興行は、大きな当たりはなく、どうもパッとしない。

だが、気持的ちには、満を持しての期待作が控えているから
そう、落ち込まない。
その理由は・・・、
ドカ~ン!と心強い作品が1958年正月映画に大作が控えている。

その映画は、
アメリカでは、「ジョーズ」を超える凄まじい大ヒットの鳴り物入り。
監督が、スティーブン・スピルバーグとくる。
もう、お分かりできたでしょう。
そうです、そうです、
あのスピルバーグ監督作品、永遠不滅の「E.T.」です。

これまた「ジョーズ」のCIC配給。

もう、秋は、秋刀魚どころか、紅葉どころか、恋にうつつをぬかす事もなく、
息を潜め、狙った獲物を獲得したが、
「ジョーズ」にはない条件を配給会社が付けてくる。
市内での他館との2館拡大。
あちゃ~!売り上げ2等分、いや、競争でどうなることやら?

でも、苦渋の選択を飲むしかない。

そうそうに、
こんな大きな作品に出会えることはない。
学生バイト時代、「ジョーズ」に関わり、
スピルバーグ初監督映画、「続・激突!カージャック」に魅了されて、
なおさら映画好きに拍車がかかった経緯もあり、
これも、何かと、スピルバーグとの御縁を感じる。

だから、どんな条件であろうが、やることは異議なし!

12月公開前には、他館との差別化宣伝方法を仕掛ける。
「サタディーナイトフィーバー」では、
オリジナルTシャツを勝手に作成し(今はご法度です)、
それで、興行成績にも一役買ったが、その類は出来ない。
エチケットして、他館との紳士的勝負を強いられる。

ならばと「E.T.」は、公開前の2週間を、あえて不入りを覚悟で、
スピルバーグの再映の2本立で、「E.T.」をあおり、この劇場が、
「E.T.」劇場の本筋と言わんばかりで攻める。

過去、他館での上映した再映「レイダース失われたアーク」と、
「ポルターガイスト」のスピルバーグ大会の2本立を敢行する。
当然、不入り覚悟で、
あえて、2週間の興行を棒に振っても、
これも宣伝費とも思えばいい。
この試みも、本社は、何も反対はしない。
信頼からくるものと感じる。

当時は、本社のもう一人の常務(このお方が、実質の社長業をやっていて、
同族会社のため、末子だったため、肩書きは常務、実質はTOP)の方と、
この3年での深い絆が出来上がっていた。
私の人生で尊敬出来る、また映画人生の恩人であることは間違いない。
この常務、口出しない。
かなり勇気がいることだ。
この若造に好きなようにやらせる。
私が、その立場なら、たぶん、口出ししてる。
だから、
今でも感謝しかない。
私の人生の最大の恩師である。

横道、逸れましたが、この関係があるから、
正社員になって、冠婚葬祭は別として、
休日は、とったことなどない。
女性とのデートも、仕事明けの夜がほとんど。
たまに昼間、2時間抜け出しての食事ぐらい。
女性も、この性格を理解してるというより、我慢してのだろう。
すみません。
それ位、映画にどっぷり!でも、何の不満もない。
給料のことも、お金のことで深く話し合ったこともない。
ニュースで見る春闘など、何でやねん?の思い。
好きなことを、やらせてもらえる幸せは、何事にも変えられない。

本題に戻ろう。
「E.T.」の公開前2週間映画のスピルバーグ大会。
それも、新聞広告では、「ET」公開前2週間イベントと名を打って。
前売り券につなげる手段でもあるが、
「E.T.」、来るぞ、来るぞを印象付けるため。

と、ここまで書いて、話を、「E.T.」上映が決まったのは公開の4ヶ月前。
公開2ヶ月前の
9月の「E.T.」の業界試写会で起こった初現象に遭遇する。

忘れもしません未だ。
この「E.T.」は、相当、作品に自信があるのか、
配給会社もあまり、中味を見せたくなく、
最低限の試写で、名古屋ではせず、大阪での限定的な試写です。
だから、周辺地区の関係者は、満を持しての
この”大阪の陣”の様相です。

夜、劇場を貸切り、極秘試写会のようです。
一般人は告知なし、業界人、メディアのみ、
もうマル秘の扱いです。

こうなると、映画の出来栄えに期待感はなおさらの事です。
大学時代のバイトの時の「ジョーズ」の試写を超える体制です。
いざ映画が始まる。
さすが、スプルバーグワールド。
どんどん物語りにのめり込んでいく・・・。

ワクワク感、ドキドキ感、感動、ラストの爽快感、
すべてがエンターティメントの塊です!
これぞ、スピルバーグの真骨頂!

エンドロールが流れます。
誰ひとり、立ち上がりません。
ほとんどの劇場試写会では、結構の方が帰り去るものですが・・・

そして終幕の灯りと共に、
今までの試写会にはない現象が起こったのです。
私の映画人生の中でも、映画館鑑賞後の後にも先にも初めての現象、

それは、
何と、割れんばかりの拍手が起こったのです!

私もそれにつられ、大きな拍手を贈りました。
こんな現象に唖然です。
何かと、クールな業界人、メディアが拍手などすることはしません。
この現象は、未だに、40年以上経っても、忘れることは出来ません。
それほでまでに、この「E.T.」は、受け入れられたのです。
いや、業界まで虜にしたのです。

もう、勝負は見えました。
日本でも、とんでもない大ヒットを確信したのです。

1982年、12月11日、
「E.T.」
が世紀の公開日を迎えた。

市内では、当館と、他館との2館拡大公開。

上映開始時間1時間前から、早朝から、長蛇の列が並ぶ。
(現在のように予約制はなかった)

みな、目がキラキラして持ち望んでいることがわかる。
老若男女、小さなお子様連れの家族などなど、幅広い客層。

初日から、市内では他館と2館計で、3000人以上を動員する。
新記録である。
日曜日は、2館拡大なのに、もうあふれんばかりです。

この勢いは、週を追うごとに、口込み効果により拍車をかけた。
正月には、入りきれないほどの観客で、あきらめて帰路に着く人々が
多数出ました。

年を越えて、2月になっても、動員は衰えることはなかった。
「E.T.」の作品力を、まざまざと見せ付けられた、
スピルバーグの渾身の傑作と言って過言ではないのは言うまでもない。

あの大阪の業務試写会での上映終了後の拍手という異常現象の答えが、
今ここに、”本物の証”を実証されたのだ。

じゃ?この3ヶ月間、結構、動員整理は大変だが、
次作の宣伝体制も、ちゃんと準備していたので、心に余裕が出来る。
その余裕は、時間をもてあそんでいた訳ではない。

これまでに、触れてはいなかったが、
2年前から、”タウン誌発行”には関わっていたのだ。
その話は、映画から、横道がずれると思い、明記しなかったのだ。
それって、今で言う、副業と呼べるものでもない。
いきさつは、仕事上の付き合いの女性(その後のタウン誌編集長)から、
資金面で応援してくれないかとの依頼から。

個人的に、頑張る人とタッグを組むのは好きだし、
物づくり、アート系の友達が、
映画館を通じて、多くなっていたのだ。

そこには、前記に記したように、地方テレビ局のディレクターも含め、
当時、地方では、タウン誌ブームの真っ只中で、この市内でも一誌、
発行されていて、映画の情報提供していたからみもあって、
そのタウン誌の一人と、交流が頻繁にあったことから、
相談ごとも乗っていた。
そのタウン誌のスタッフが、”もっと、広告におもねるのではなく、
テーマを持って、新たなタウン誌を作りたい”と
固い意志を常に聞いていたので、
独立したい!の決意に後押しをしたのだった。

要は、スポンサー的な存在だったが、自分の映画館での給料は、
そのタウン誌の資金不足のバックアップに。
何といっても、映画館に軸足を置いていたし、二兎追う者は一兎を得ず位は、
わきまえていた。

いや、中途半端に映画館をやれるほど、たやすくないことは、
この世界に身を投じて、より強く、身に沁みていたから、
だから、応援はするが、編集には関わらないことだった。

今まで、この映画館奮闘記に触れなかっったのは
この経緯からだった。
また、映画館奮闘記から逸脱すると思ったし、話が散漫になると危惧し、
ただ、このタウン誌との並行は、このあたりから避けて通れない事になる。

映画館にとどまらず、タウン誌の発行に本格的に関わっていくが、
本題の映画館の話に戻そう。

公開3ヵ月ロングランの上映終了間近でも、当初の4分の1にはなってはいたが、
中途半端な映画よりも、日曜日に、400人程度は動員していた。
まさに、モンスター映画である。

打ち切るのは惜しいぐらいだったが、
春休み映画として予定している、
アニメ映画、安彦芳和監督「クラッシャージョー」が公開間近に迫っていた。

1997年「宇宙船間ヤマト」を皮切りに、
「銀河鉄道333」などの当時アニメブームが長年続いていた。

「E.T.」の上映を打ち切るのは、断腸の思いだが、
人気なる「クラッシャージョー」の映画の前売券が
飛ぶように売れていたこともあり、満を持しての公開。
先着プレゼントのセル画(撮影用フィルム用にセルロイドの原画)を1枚贈呈、
当時は、これをお目当てのアニメファンが続出した、今ではコアなもの。

入りは、熱狂的なファンが初週のみの動員だけで、
2週目には、急降下。
鼻から3週間集中のみと、想定の範囲なので打ち切る。
それでも、アニメファンの後押しもあり、まずまずの成績を収めた。

そうなると、次作は?
ここで、本格的な作品と行きたいが、そうは行かない興行のむずかしさ。

去年、大当たりした「白日夢」の映画会社とのしがらみ、いや、恩で、
また、「白日夢」の武智鉄二監督作品、
お色気映画「花魁」と、田中美佐子、大場久美子、池波志乃の「丑三つの村」の
2本立である。

柳の下にどうじょうは二匹はいない。
「E.T.」を、まだ超ロングランしていた方がましなほどの入り。

「E.T.」でつかんだ観客層を、どんどん遠ざけていく悲しい現実。
何でも、したい映画をやれるほど、興行はたやすくない。
映画会社とのお付き合い、各映画館との作品争奪戦も少なからずあり、
好き勝手、いいものどりは、出来ない、他館も、そのジレンマは、
映画館経営には、つきまとうものだ。

一般の方には、なかなか理解してもらえない実情である。

さあ、ゴールデンウィーク映画に触れよう。
去年、ソフィー・マルソー主演の「ラ・ブーム」の続編、
「ラ・ブーム2」を公開することになる。

「ラ・ブーム」の1作目より、数字はいいが、
限られた客層の上、ティーンエイジャー層だから、平日が弱い。
それは、今まで、たとえば、アイドル映画なら土日はいいが、平日はさっぱり、
これは、何年経ても、変わらない。学校休みじゃいと来ない。
だから、子供映画、10代映画と、春休み、夏休み、冬休みに絞るのである。

ソフィー・マルソー、君に罪はない。
それでも、この「ラ・ブーム」で映画自体は、大当たりはなかったが、
可愛いいという認知度は十分、日本で知れ渡った。
私にとって、「ラ・ブーム」は、常に心に残る。
それを証明したのは、
余談:2011年韓国映画の「サニー永遠の仲間たち」で、青春時代シーンの回想で
「ラ・ブーム」の主題歌が、いいところで流れていた。
やっぱり、韓国の監督にも、この映画の愛着があったのだ。
映画は、世界を超えるか・・・。
この逸話も、映画冥利に尽きる。

話を戻そう。
映画の興行を冷静に考えると、「E.T.」でつかんだいい流れも、
その後の作品編成が、上手くはなかった。
いくら、映画会社とのお付き合いなれど、
もう少し、冷静な判断しなければいけない。

遥か彼方、心が少しづつ、すさんんでいく・・・。
「E.T.」で生まれた余裕も、あせりになる。

でも、映画の神様は、この映画館を見離していなかった。

ダスティン・ホフマン主演、OLに扮する女装が話題になった
「トッツィー」を公開したのが、
予想に反してのヒットになった。

女装モノがくるわけがないと、タカを括っていたら、女性客が多い。
これには、ビックリ。また、カップルも多い。
映画の興行は、男客主体の映画内容は、長い興行には繋がらない。
やはり、カップルなら、映画のチョイスに女性の意見が強いのである。

戦後なら、いざ知らず、この時代にはレディフーァストが定着。
今日の”草食系”などはいないが、
また、カップルの割り勘など、あり得ず、男が出すもの。
映画のチョイスは女性。食べたいものも女性優先、
そうじゃないと、モテナイ。
今では、割り勘は当たり前だが、この女性主体は変わらないか・・・。

また、横道逸れました。すみません。
「トッツィー」、映画の内容も良く、観客も満足。
いい成績を収め、胸を撫で下ろす。


ここからが、再度、勝負どころ、
あの「戦場のメリークリスマス」を上映することになる。

大島渚監督、デビッド・ボゥイ、坂本龍一出演と音楽の話題もさることながら、
ビートたけしの初映画出演が、メディアで持ちきり、
カンヌ映画祭のグランプリ候補、だが、賞は逃すが、
公開したら、バカ当たりです!
大島渚ならではのテーマ性は強いが、幅広い客層、
話題作となると、映画の内容問わず、見たくなるものである。
4週間の限定上映だったが、打ち切るのは悔しいほどの
最後までフル動員して、1000万円を挙げた力強い興行だった。


ここまではいい調子、いや、この調子でいけば、
「E.T.」という大当たりのお陰もあるが、
年間1億円の売り上げが見えて来た。


ここから夏休み映画だが、
さかのぼる事、二月前、夏休み映画のチョイスに考慮していた。
そこで、ここからが、
私の映画人生、映画選択の最大のミスどころですまない、
今でも、、そのことを思うと、グッとくる、重いものがある。
それほど、取り返しのつかない大失敗を犯すことになる。
ここに明記するのも、パソコン打つ手が重くなる。
やれやれ・・・。

何故なら、配給会社ワーナーブラザースから初めての依頼、
他館でヒットした「スーパーマン」のシリーズ3弾、
「スーパーマンⅢ」を予定していたのだ。

これは、大きくは望めないが、シリーズモノの強み、手堅さがあった。
大バケにはならないが、損にはならない。

そんな時、
あの伝説の「南極物語」の熱烈なオファーがあった。

もちろん、みなさん、ご存知、
いや、ほとんどが50代以上か、
あのタローとジローの南極を舞台の犬物語。主演は高倉健。
フジテレビが映画製作、この映画の大ヒットがきっかけで
「子猫物語」、「キタキツネ物語」などの連作し、フジテレビ映画の起爆剤となった、いわくつきの映画。また、各テレビ局も映画製作に追従し、
テレビ業界が映画界とタッグを組むようになった記念すべき1作。

されど、当時は、映画館サイドは、”南極が舞台?犬映画?、で、誰が見るの?”
ほとんどが、無視状態。

他館でも、断られているのだろう。
配給会社、”頼みますからお願い!”熱烈コール。
当然ながらも、丁重にお断り。


さあ、夏の興行が始まりました。
それがですネ。
もう、答えは書かなくても、おわかりですネ。
やってしまいました。

「南極物語」の初日、
余裕綽々で上映映画館の偵察で劇場に入ると・・・

”あじゃぱ~!!!!!!!”

心の叫びが、街を、いや、地球を、
いやいや、宇宙に届くような雄たけびが、
めまいがする。

場内は、超満員。熱気に満ち溢れている。
”何じゃ、コレは~!”松田優作もビックリです。

この状況を目の当たりにして、
公開2週間ぐらい、ごはんが喉を通らなかった・・・。
このショック!
心は、宙をさまよい、うつろな日々が長々と続いた。

苦い夏。

結局、方や「南極物語」4000万円近く、こちらは1000万円の成績。
最大のミスを犯してしまいました。

他の映画館も、しくじった思いは一緒でしょうが、
当時の夏は、他館は、「スターウォーズジェダイの復讐」、「フラッシュダンス」、
「007オクトパシー」、「探偵物語・時をかける少女、2本立」の中で、
こちらは、「スーパーマンⅢ」、そうでしょう、他の作品と比べても
見劣りしますよね。あなたも少し、映画好きなら、
私の心を察してください。

でも、くじけていられない。
その失敗の傷は、今後にいかせればいいと、教訓にすればいいと思うほど、
まだ、人間が出来てはいないが、若さは、そこがいいことか・・・

ただ、前に行くしかない。そう、前へ・・・。

夏後半に、「グローイングアップ4 渚でデート」を公開する。

これは、去年に上映したまがい物ではなく、
血統書付きの?いや、正真正銘のあのシリーズの4作目だ。

そこそこに入るが、去年でケチをつけたから、
3作目の大ヒットまでの恩恵もないが、
そこは、「グローイングアップ」、腐っても鯛?じゃないが、
「グローイングアップ」のファンは待っていたのだ。
「スパーマンⅢ」の後釜としてはいい感じの入り。
さあ。この調子で、「南極物語」を払拭と言いたいが、
まだ、この時期、「南極物語」のロングランは続いていた。
やっぱ、複雑。

それを、なぐさめてくれる映画の登場です。
「パラダイス」で注目されたフィビー・ケイツの
「プライベート・レッスン」と「超能力学園Z」の2本立。

これがこれが、ヒットする。
「プライベートスクール」の力だ。フィービー・ケイツ、本作でブレイクした。
休日は大入り満員。うれしい悲鳴。
この年の海外の映画アイドルは、ソフィー・マルソーとフィビー・ケイツで決まり。
邦画では、薬師丸ひろ子、原田知世とくる時代。
歌では、松田聖子、中森明菜とくる、あの80年アイドル世代です。


興行も、
やや若者狙いばかりでは、商売色気ありありばかりでは、
こちらも、若者映画で入りは良くても、
映画の中身で勝負したい鑑賞の秋。

名匠監督の相米慎二の、緒形拳主演、
「鬼龍院花子の生涯」でブレイクした夏目雅子共演の「魚影の群れ」と、
神山征二郎監督、加藤嘉主演の「ふるさと」のとても渋い、渋すぎる2本立。

わかっています。
来ないよ~、そら、来ないわ。
年配者ぐらいか。

「グローイングアップ」、「プライベートスクール」の後の、
この変わり身。何か、さまよっている。
映画会社とのお付き合いの意味の上映なれど、大苦戦。
当初から、こうなるとは、わかってはいたが・・・
相米監督作品だから、やや納得かと、なぐさめ。


こうなりゃ、音楽映画で行くかと、
タイトル通り、「ローリング・ストーンズ」、ドキュメント音楽映画を。

マニアだけかと思いきや、
でも好きな人は結構いた。
ローリング・ストーンズには熱狂者がいる。
”よくぞ、やっていただきました!”と、ファンから、ねぎらいを受ける。
変な感覚。
場内に響く、ローリングストーンズのサウンド!熱い!
私が、ファンではないから、ちょい居心地は悪い。

この変に惑いを覚えつつ、
1984年の正月を迎える。

そうです。そうです。
あの「007」です。
学生時代、全作、見てる、あの「007」ですが、
ちょい、事情ありの「007」の映画です。
それは、ション・コネリー主演の
「ネバーセイネバーアゲイン」です。
当時、「007」シリーズは、ボンド役がロジャームーアに変わっていたので、
配給会社を変えて、ション・コネリー復帰作?の色合いで、
諸事情のいわく付きの「007」です、だから、タイトルも大きく”007”とは
入っていないのはつらいですが、初代ボンド、007の立役者、
ション・コネリー主演の「007」には何ら変わりありません。
私には、その事情は、どうでもいいのです。
「ロッキー」、「スーパーマン」と、
業界に入る前の名の知れた作品に、また関われる喜びが勝りました。

やっぱ、ション・コネリー、安定感あります。
風格あります。

併映に、「グレードハンティング84」付です。

このシリーズもの、動物の残虐生態のドキュメントですが、
余計な作品を、ゲテモノ付きが、気に障りますが、しょうがない。

この興行も、007ファンを取り込んで、納得の入り。

これには、ちょっとした余談があり、
それも、併映の「グレートハンティング84」にです。
この映画を見に、当時、近くの娯楽施設で、ショーをやっていた、
当時のアイドルの早見優が、マネジャーと付き人引き連れのお出まし。
えっ、早見優、スタッフともども、たじろぐ。
でも、早見優、落ち着いたものです。
ロビーで、平然と待っているのです。
それも、「007」ではなく、「グレートハンティング84」にです。
意外です。早見優、ゲテモノ好きすかネ。

ことらも何食わぬ顔で対応します。
だって、映画館ですから・・・。スタッフにもあまり見るなと注意を与える。

ただ、上映後、出て来た早見優に、私が先導に立つ訳にいかず、
学生の男子バイトに、握手してもらいなよ、けしかけ、
ちゃんと、やさしく、早見優、握手してくれました。
ありがとう、早見優ちゃん。

いい子です。

この早見優の”この対応の違いは何?”と、
脳裏を横切ったことがあります。
映画興行とは、何ら関係はありませんが・・・、
書きたくなります。
当時、前記にも記したように、タウン誌に関わっていたので、
1980年代のアイドルの取材もしました。

それが、中森明菜です。

「スローモーション」でデビュー間もない頃です。
当時は、アイドルは、全国を、地方のメディアにもこまめに回って、
直接、所属事務所からの取材依頼です。

そら、行くでしょう。
その前に、芳本美代子、愛称ミッチョンも取材していたから、
今回も喜んで。

ところがですが、
とんだ、明菜の対応です。
こちらが質問しても、何ら返答しない。憮然としてる。
今で言う、”沢尻エリカ様”状態、「別に。」とは言いませんが、
黙り込んだまま・・。何を聞いても。

見かねたマネジャーが、その質問に応える。バツ悪そうに・・・。

いやいや、売れっ子アイドルではないのです。
まだ、駆け出しです。
普通なら、愛嬌ふりまくものです。ミッチョンは、そうでした。
いや、誰でも、デビュー間もなく、売れてもいず、
16歳なら、いい子ぶるでしょう。
あがっているのではない、
人見知りでもない、
ただ、しゃべりたくない、仏頂面。

人生で、一般的にいっても、特に世間をまだよく知らない少女。
こんな対応なんて考えられません。

そこは、明菜ですか。(今なら、わかる。)

こちらも、文句も言いたくなりましたが、
マネジャーが可愛そうに思えて・・・

「じゃ、明菜さん、今日はありがとうございました。この手帳に、
読者のファンに、直筆のコメントを書いて下さい。」とお願い。

これには、明菜、対応してくれました。黙ったまま・・・。
これが、明菜の直筆サインです。

この斜め字、明菜の直筆です。
正真正銘の直筆です。
なかなか、お目にかかれるものではないです。プレミアものかな?

かなり、話が逸脱しましたが、早見優の対応、芳本美代子、
あっ、三田寛子も取材しました。

ついでに、三田寛子の直筆も。

この子は、本当に別格に、いい子でした。
丁寧な対応、しゃべり、
そら、今じゃ、梨園の奥様です。
コメンティターとして、ちゃんとしてます。
10代で、ちゃんとしている方は、人生の設計図は描けないまでも
確かな足取りで前へ向かっていく、お手本です。


本題に戻しましょう。
正月映画、幸先良く、次作は「ザ・デイ・アフター」の公開となる。

1983年11月に全米で放映された、
核攻撃の惨状を描いて大反響を呼んだTVムービー。
それを日本では、翌年早々に映画サイズで、緊急ロードショーとなった話題作。

米ソの緊張が高まる中、遂に核戦争が勃発。
カンサス・シティに暮らす平和な人々の頭上に核ミサイルが降り注ぐ物語。
リアルな映像も入れられている。マスコミも多く取り上げられ、
その結果、かなりの動員を見せた。
1984年、第2弾も調子いい。


映画館に勤め始めて、早6年。
学生バイト時代入れたら、およそ10年。
”慣れてくる”。というキーワード。
飽きはしないが、手馴れてくる感は否めない。
そこを調味料のように、刺激を与えてくれるのが、
月刊誌でもあるタウン誌にも関わっていることは大きかった。

昨今の主流である情報誌のように、
お店紹介、グルメ紹介などがメインではなく、
ほぼ、スタッフの書き物ネタに特化していた。
それは、広告収入が発刊3年程度では、それほど見込めず、
広告も美容室、ブティック、飲食店などが主流で、
仕方なくラブホも入れることもしばしば。いや多かったか。

スタッフは編集長入れて、4人~5人程度。(多々入れ替わりはあった)
採算は、ギリギリ。みな、儲けることに執着してない。
ただ、書きたい、新しいテーマで、読書を喜ばせたいのみ。
だから、ノリでやっている。
月1回の編集会議も、ビール付き、酒盛りでなく、会議の潤滑油がビール、
何か?問題でも?
だって、楽しくなければ、タウン誌、やっている意味はない。
私が、その編集室に行けるのは、映画館の仕事を終えて、毎日、夜7時から、
だいたい夜11時まで製作活動。その後、飲み屋に繰り出すことも・・・。

編集室は、家賃10万の白い一軒家の一角、お庭もある。
間取りは、トイレ付きで、10畳程度。
だから、にぎやかな編集室に、多種多様なお客も多い。
そこから、ネタも生まれる。

テーマの大失敗もある。
今では、モラルとして問題ありありの
”つぶれたお店紹介”は、お恥ずかしい限り。
若さゆえでは、許されぬネタ。
これは、大いに反省のネタである。


私も、この頃には、ページも5ページほど、担当していた。
映画のコーナーは、見開き2ページを市内の映画館の映画情報。
そこには、伝説の対談コーナー、”角川と薬師丸対談”、があった。
何、ソレ?かな。
飛ぶ鳥を落とす勢いの角川映画の全盛時代、
角川春樹と薬師丸ひろ子の架空対談である。
たとえば、出だしも、
角川春樹「胃がもたれるな~・・・。」
薬師丸ひろ子「あっ、私の陰に隠れて、原田知世と焼肉食べ放題、行ったやろ?」
角川春樹「違うわ、白米、食べ放題のお店や!」
みたいな展開が、延々・・・と
アホな会話が続く。

この対談、毎月50回以上続いた・・・。
私に言わせれば、伝説の対談コーナーでした。
このノリは、その後の新たな依頼への布石となった・・・。

もう、1ページが、時代を斬るネタ、
後、見開き2ページが読みきり小説を書く。
これが大変。

松本清張ばり?のほぼ推理小説に。
このネタを考えるのが、毎月の頭の痛いこと。
でも、映画館の仕事にも、いい影響を与えた。
ひとつに寄せるのではなく、脳の構造が他にもいくので、
いい刺激になるのである。

それにしても、この推理小説、とんでもないカルトさを書いていた。
たとえば、”中森明菜殺人事件”では、最後のどんでん返しで、
犯人が、”みちのくひとり旅”の山本譲二というオチは、
アホさを超えて、皆、あきれ返るばかり。
何か、問題でも?

横道逸れまくりですが、
このタウン誌発行も、人脈の広がりもあり、
また、ひとつの思考に囚われると、狭い想像力しか浮ばないので、
映画館活動にも、いい影響を及ぼしました。

公開映画の話に戻しましょう。

1984年の春休みに、
大ヒット作「少林寺」の第2弾「少林寺2」の公開です。

1作目の力強さはないが、熱狂的ファンに支えられ、
「少林寺2」は、客層も幅広く、
確実な客足に支えられました。
この主演、リー・リン・チェイ、その後、名を変え、
もう、おわかりでしょう?
ジェット・リーです。
ジャッキーと共に、香港映画の顔です。


さあ、ゴーデンウィーク作品です。
遂に、上映できることになりました。
大学生時代、授業さぼり、この映画にうっとり、
クールでカッコイイ刑事、手にはマグナム銃とくれば、
そうです、そうです!もちろん、クリント・イーストウッドの代名詞。
「ダーティハリー」シリーズの第4弾、
「ダーティハリー4」を上映するのです。

念願の「ダーティハリー」を上映できる喜び、
「ロッキーⅢ」、「007ネバーセイ・ネバーアゲイン」のような
ワクワク感はたまりません。
映画館冥利に尽きる、しあわせです。

併映には、トム・クルーズのアメリカでは大ヒットした出世作、
「卒業白書」です。

最強2本立のように思われましたが、「卒業白書」に日本では力はなく、
「ダーティハリー4」頼みの興行。

それでも、根強いファンは多いが、シリーズ4に少々、食傷気味。
映画自体も内容が乏しく、愛人まで出演させていたこともあり、
期待に応える成績とはなりませんでした。
ただ、
「ダーティハリー」の上映だけで満足という、
興行者としては失格でしょう。
まあ、それ位、この「ダーティハリー」を愛していた、
いかに映画好きかをわかって下さい。

でも、そんな事では、趣味の領域で終わってしまう。
ここを胸に刻んで、今後の興行に取り組まなければと、
再度、初心に戻る、心に刻み、誓う。


では、次の手は?
邦画にちょい、シフト。
まずは、当時、ポテトチップスのCMでブレイクした藤谷美和子と、
時任三郎、監督は藤田敏八の「海燕ジョーの奇跡」を。

懐かしい!と、声を上げた方は、相当、映画好き。
これが、予想外にヒットする。
藤谷、時任コンビの妙もあってか、ラブ・アクション映画だが、
若者に受けたのだ。

この勢いで、
はい、はい、遂に出ました。
菊池桃子の伝説デビュー映画の登場です。
彼女の為の本のタイトル「Momoko」のアイドル誌で評判、
そして「青春のいじわる」(プチ情報:作詞は秋元康です。)の歌で
アイドルデビューし、あまりの可愛さにファン急増。
(私、レコード買いました。だって好きなんだもん。)

映画のタイトルは、「パンツの穴」

桃子、パンチラ、ちょっとHなお話。
ストーリーはどうでもいい、桃子のみを見るだけ。

併映には、独自で、富田靖子のデビュー作の
「アイコ16歳」を持ってきた。

我ながら、いい2本立である。

土日は、大入りです。
ほとんどが、桃子目当て。
いやはや、アイドル映画は、動員力が凄い。
当時は、薬師丸ひろ子、原田知世、中山美穂、キョンキョンなどが
アイドル映画全盛期。
そのおこぼれを、いや、菊池桃子も一時期、担いました。
(今でも、可愛さは名残があるから、桃子ファンは永遠です。)


今度は何をする?ときて、
お付き合い映画の上映です。
「瀬戸内少年野球団」。

作詞家の阿久悠の初小説(直木賞候補にもなった)の映画化。
監督は、岩下志麻のダンナでもある篠田正浩監督、主演は夏目雅子。
はなから、当たるわけがない。
このテーマの地味さ、一体、誰が見るの?と、喉まで出かかった言葉を呑み込み、
無残な興行を強いられる。
こちらも覚悟があってのことだから、落ち込みもないが、
初夏の風は、どことなく、さわやかではない。
野球をテーマながら、甲子園の球児の活躍前に打ち切りました。


中途半端な展開は、夏興行にあらわれました。
「スーパーマン」の女性版、
「スーパーガール」をするハメに。

どうですか?
この安易なキャラ。
そう、人は見ない。キワモノ扱い同然。
内容もあまりにもチープ。
誰かに、「スーパーガール」を見たなんて言えない雰囲気。
これはつらい。
いくらコケても、映画が良ければ救いはある。支えはある。

けれど、もう針のむしろ状態。
3週間で打ち切る。

お盆には、
またもやシリーズ「グローイングアップ5 ベイビー・ラブ」の定番で、
夏後半をしのぐ安易さ。

興行の安定はあるが、このシリーズは息切れ、酸欠気味。
ほどほどの入りで、夏休み興行は、大敗に近い。


秋風とともに、疲れがドットと押し寄せてくる。
興行者にとっての良薬は、映画の大ヒット。
そうたやすくない。だから、面白いのである。
簡単にいかないから、つらいが、そのつらさの何度も繰り返し、
”映画のこうのとり”を、飛んでくるチャンスを
逃してはならないのだ。

これが、いつくるか?
もう来ないかもしれない。
そうなれば、映画館は成り立たない。当然、先行きは閉館へまっしぐら。

常に、1年、1年、勝負。
売り物が他力本願。
飲食店なら、この味で勝負という努力が実るが、
いかんせん、映画館、今はシネコンか。
大手映画会社の作品力が弱ければ、
閉館と追い込まれるには自明の理。

ここがつらいこと。
いくら、独自の宣伝やアイデアなんて、作品に力がなければ、
宣伝費もドブに捨てたようなもの。

30歳にして、他力本願の怖さを思い知る。

サラリーマンもそう、個人がいくら頑張っても、本体の会社がつぶれたら
はい、それまでよ。
まあ、自営と違って、リスクは抱えていないから、次の会社に移ればいいが・・・
でも、ヘッドハンティングされた転職ならいいが、
倒産のアカが付いた転職は、しょせん、次の会社ではつけ込まれるがオチ。
まあ、給料は、前の半分がいいとこか?

どんどん、話が変わっていくが、
言いたいことは、他力本願であれ、好きなことは、
もう殉死する覚悟でいることだ。
曖昧さは、命取り。


さあ、秋の興行に行こう。
「ザ・ライダー」と、「ブレイクダンス」の2本立。

「ザ・ライダー」は、最も危険な職業と言われるモータースポーツの
レーサー達、バリー・シーンを中心に世界グランプリ戦に挑む姿を描く。
当時のヒーロー、片山敬済も出てる。

併映は、「ブレイクダンス」。

あの時代、ブレイクダンスブーム。
今や定番となったが、その当時は、あの踊りに驚愕したもの。

この2本立。強い。
見事なダッシュ!で、モーターファンもとより、興味ない人まで
ワンサカワンサカ、映画館に足を運んでいただきました。

夏の失敗を、この秋興行で、一息つく。
胸を撫で下ろす。
食欲の秋、秋刀魚も上手い、お酒も上手い。


上手いついでに
10月後半には、「ポリスアカデミー」と、
クリント・イーストウッドの「タイトロープ」の2本立。

知る人ぞ知る、アメリカポリスの能天気なノリのコメディ映画。
シリーズ化もされ、アメリカでは大ヒットなのだが、日本では、
アメリカのコメディは、私は好きだが、日本人には、アメリカンジョークと、
「フライングハイ」などにみる、シュール過ぎるネタにチンプンカンプンか・・・
ドリフターズなノリでないと無理なところもあった。
小ヒットの弱さ。

「タイトロープ」は

イーストウッド人気が下降気味で、「ダーティハリー」以外はそう受けない。
この作品はサスペンスアクションなので、派手さもないから、
当時のアクションはカーチェイスか、銃撃戦がないと、この手は見逃される。
少数の映画ファンのみの興行であった。

そこを穴埋めできるものは、もうない。
次に、「フィラデルフィア・エクスペレメント」という、長いタイトルの
SF映画である。

第二次大戦中、敵レーダーから消えるための極秘実験”フィラデルフィア・エクスペレメント”実験は失敗に終わり、二人の水兵が忽然と姿を消した。
だが、その水兵は、30年後の1984年にタイムスリップしていた・・・。
実際の実験とも当時、噂されたネタを映画化。

壮大な映画と思いきや、どうもチープ。
案の定、客は来ない。
待てど暮らせど来ない。今なら、ちょっとは来るのにネ。
時代が追いついていないか・・・。

でも、冷静。
何故って?
そら、1985年正月映画に、大きな作品が控えているから・・・。
また、もってまあった書き方がいやらしいが・・・
テレビなら、ここで、CM、はさみますが・・・

それは、
「グレムリン」です!

待ってました!スピルバーグ製作、ジョー・ダンテ監督。
アメリカでは、大ヒットしているから、
う~ん、たまりません。
再度、「グレムリン」です。(くどい!)

はい、フタを開ければ、日曜日は1000人以上の動員。
入りきれないよ~。

お話は、骨董屋で手に入れた不思議な動物を息子にクリスマスプレゼントするが、
約束事がある、その小さな動物に、水に濡らさないこと、太陽光線に当てないこと、
真夜中過ぎにエサを与えないこと、その三つの約束を破ったら、可愛い動物は、凶暴な怪物、”グレムリン”へと増殖していくという、スピルバーグならではの世界観。
そら、ヒットするでしょう。だって、映画も面白いだもん。

1985年正月早々から、この世の新春を満喫する。
三ヶ月のロングラン。
これだから、映画興行は辞められない。

本当に水物商売であるが、
水を売っているのではない、映画という楽しい非日常の夢を売っているのだ。

鑑賞後の観客の顔を見れば一目瞭然。
満足の顔。
こちらも、興行で満足。
ウィンウィンでしょう。(何、それ?)

みんなが楽しむ、「ジョーズ」、「E.T.」でもそうだったが、
娯楽作に楽しんでいただく、
これこそ、興行冥利に尽きます。

この映画館生活に、タウン誌発行ときて、
ここで、新たな展開を迎えることになりました。

地方の某テレビ局から、
4月から、毎月、1回、15分番組をやりませんか?の依頼。

映画も、テレビ番組も、アイドルも熱心だったが、
20代前半から、おぼろげに映画を作ってみたいという願望はあったが、
夢のまた夢、現実味がなく、心の片隅に少し眠ったようなものだった。

今まで、映画館勤めも、タウン誌も、自分から積極的に動いたのでなく、
すべて、お願いから始まる、自らのリアクションでもない、
たまたま、好きなこと。そこは恵まれてはいる。

予想外な依頼は、自信などなかったが、好奇心がいつも勝っているので、
それと、来る物、拒まずがモットーまでとはいかないが、
やってみないと、何もわからない。
じゃ、やるか!の安易な性格も後押しか。

「好きなテーマでやって下さい。こちらがカメラで撮りますから。」と。

根っから、お笑い好き。
コメディ映画なら、「フライングハイ」「裸の銃を持つ男」などの
ザッカー兄弟監督のシュールなノリ。ちょい、日本人には受け付けないが・・・

このノリを15分をやるのは大変なので、突撃インタビューコーナーをメインに
間に、小ネタをはさむ手法で取り組んだ。
突撃モノは、田んぼで作業するおじさんをつかまえて、
田んぼに関する質問を出す「クイズ、田んぼショック!」の企画。
当時、田宮二郎の司会の「クイズ、タイムショック!」にひっかけて、
全問正解なら、”農薬一瓶、差し上げます!”と、声高に叫んで、
これって、今ではアウトかな?
また、朝の高校の前で、生徒に「あなたの弁当、見せて下さい!」と、
校門前で弁当開けさせ、
それを、私が、いきなり、マイ箸でその弁当をつまみ食いする愚行。
これは、コンプライアンスどころか、犯罪に近い行為。
さらに、学校には事前に承諾受けていないゲリラ撮影。
いやはやです。どうかしてる。

でも、それがまかり通ったまでは言い切れないが、
何か、それ位程度で、許された時代か・・・。
そのビデオは今も手元にあるが、もう陽の目は見ない。
幻のビデオ。”ユーチューブ”で流したら、どういう反応あるのだろうか?
出演した当時の高校生たちが訴えるのだろうか・・・
いや、懐かしいと言ってくれるのだろうか・・・

今見ても、面白いのですがネ。
そのネタにはドラマもあります。
ほとんどの高校生、男女とも、誰も嫌な顔せず、見せてくれました。
弁当をつまみ食いしても、怒ることなく。(今なら見せないでしょう。)

最後の男子高校生は、
お母さんを亡くしていて、自分で弁当を作っていると。
生真面目な青年でした。きっと、今は出世していることでしょう。
これは、さすがに、こちらが胸が熱くなりました。
NHKの鶴瓶の「家族に乾杯」に見られるドラマは、一期一会。
偶然ではなく、見えないものが与えてくれる授けてくれるものあることを
番組作りを通じて、感じることが出来ました。
けども、はずれもあります。
だから番組は、面白いのです。
そこを、どう処理するかが腕の見せ所です。


再度、本題に戻しましょう。

「グレムリン」の大きな成績を収めころもでき、
幸先のいい出足です。

3月公開作品は、ここで渋い作品の登場です。
「地獄の黙示録」などの名匠フランシス・フォード・コッポラ監督の
「コットンクラブ」です。

禁酒法下の1920年代の黒人街ハーレムにある”コットンクラブ”の店を舞台に芸人やマフィアたちが蠢く世界を描く。主演はリチャード・ギア、ダイアン・レイン。
どうですか、渋すぎます。
一般受けは無理と思いつつ、この映画会社は、
次にアカデミー賞最優秀作品賞に輝く、「アマウデス」を控えることもあって、
このチョイスです。
当然、映画通だけです。春休みなのですが、しがらみの上映は再三あります。
でも、コッポラ映画をやる事に意味はあります。
この余裕も「グレムリン」の成績のおかげです。


ゴールデンウィークには、初めてのアカデミー賞最優秀作品賞を上映です。
前記に記したように「アマウデス」です。
興行界に踏み入れて、およそ7年。初めてのアカデミー賞作品です。
感慨深く、光栄の至りです。
心底、うれしいものです。

天才音楽家、モーッアルトの35年の生涯を、
これも作品賞に輝く「カッコーの巣の上で」のミアス・フォアマン監督が、
映像美と音楽がさらに際立たせた素晴らしい作品です。

入りも、娯楽作のように爆発力はありませんが、
アカデミー賞受賞効果もあり、
土日、平日と堅調で週ごとに,落ちもなく、まずまずの興行。
ただ、当てにいくばかりではなく、上質な映画をかける喜びは一塩です。

ひとつの映画館勤めの句読点にもなりました。

「コットンクラブ」、「アマウデス」と高尚な映画と続きましたが、
ここで、6月は、ホラー映画の登場です。
「フェノミナ」です。

あの「サスペリア」のダリオ・アルジェントが放つ不気味な寄宿舎を舞台に起きる
殺人事件ホラームービー。
これが、予想外に入る。
やはり、当時のホラー映画は根強い人気。
当時、人気女優のジェニファー・コネリー主演も後押し。
作品の出来も恐怖も、さほどでもなかったが、よく入った。

ここまで、1985年前半は、いいペースで運んだが、
夏の興行から、最悪の状況を迎えることになる。

「V・マドンナ大戦争」である。

ネオ・ポルノの巨匠と言われた中村幻児の初の一般映画。
高校を舞台に、生徒会費300万円を守るため、
生徒会長に雇われた七人の美女達が、柳生軍団とのバトルアクション。
ポスターだけ見てれば、好奇心が沸いてもいいが、
これが、まったく来ない。
三重県の久居の廃校がロケ地という地の利宣伝効果もなく、
散々たる興行。
映画自体は、結構、B級感満載なれど、アクション頑張っていたましたが、
今では、超カルトな映画です。
不思議に、入りは悪くても、この映画の印象度は強いです。
このティスト、B級感、私の自主制作映画に近いです。
だから、忘れられないんでしょうネ。

この映画のつまずきが、その後のも出す映画、出す映画、コケ続ける。
たとえば、マッド・デイモンの「フラミンゴキッド」(知るか!の声が聞こえてきそうです。こちらも、完全に何の映画かさっぱり忘れました)と、
ここに列挙しても、何、ソレ?でしょうから省きました。


そんな苦境の中、
歌好きの友人からオリジナルのレコードを自主制作したいから、
協力してとの資金援助の依頼。
またしても、来る者拒まずだから、「二つ返事」。
半プロデュサーとなる。
これが意外に面白い。
どの曲を出すか?当時がA面、B面の2曲をチョイス。
レコーディングスタジオ(ミキサー付き)を時間単位で借りる。
今のレコーディング風景とは、何ら変わりない。
打ち込み音楽、パソコン駆使ではないだけ。
大きな皮性のソファーに座り、
”ここのサビは、はもったら。”と、意見のべる。
何を、ド素人のくせに、一著前に、すみません。

ただ言える事は、歌作りも、タウン誌作りも、
ゼロから、モノを産み出す作業はたまらない。
ここが、映画館経営と違って、他力ではないのが大きな魅力だ。

レコードは無事完成したが、残念ながら私たちの努力不足もあり、
あまり売れませんでした。
まだインディーズがない時代ですから、甘くはありません。
しかし、本人の売り込みで、有線で流れたのは唯一の救いでした。
今も、このレコード、手元にありますが・・・
いい想い出です。


また、映画に戻しましょう。
11月に公開したのは、
「食卓のない家」と「恋文」の邦画の良作2本です。

原作は1972年に起きた浅間山荘事件を題材とした小説を、
「東京裁判」などの名匠小林正樹監督が、
息子の犯罪が家族に与えた果てしない苦悩を描きます。
どうです。渋いでしょう。硬派な作品です。

さらに、「恋文」は、

連城三紀彦の原作を、「青春の蹉跌」などの名匠神代辰巳監督が、
萩原健一、倍賞美津子、高橋恵子共演。
余命いくばもない昔の恋人のもとに走った夫、取り残された妻と子。
出した答えとは・・・。
いい作品でした。

この2本立。映画好きにはたまらいでしょう。
でも、お客は、かんばしくない入りです。

いい映画だから、お客は来る保障はない。
ならば、娯楽作ばかり並べても、映画のお客様の目を超えません。
映画館の経営は、売り上げあってですが、
ただ、がむしゃらに、そこだけ求めるのは、どうかな?と、
やはり、こちらも、これでご飯を食べているだけですから、
趣味という訳にはいきません。そこがジレンマです。
映画好きな人間には、やっかいな難題です。
ある意味、商売人ではないことは致命傷ですが・・・

ここまで書いてきて、触れてないことがあります。
7年あまりの興行生活ですが、お休みを頂いたのは、10日もないでしょう。
そのお休みも冠婚葬祭、でも、終わり次第、夜にお仕事はザラ。
彼女とのデートは?、ほとんどが、仕事終わり。
いつも、夜デート。
本当に、今までの彼女たちの理解、いや我慢か、それに甘んじて、
許してくれた過去の彼女たちに、今更に感謝しかありません。(遅いわ!)

映画館だけでは、たぶん、飽きたらないのかもしれませんでした。
かと言って、映画館の本業を手を抜いたことはしませんでした。
日がな一日、映画がメイン、後、タウン誌、
もうひとつ、月イチのテレビ場番組製作と、後、深夜の飲み会など、
1年はあっという間です。


では、12月、1986年正月映画と参りましょう。
「コーラスライン」です。

ブロードウェイのスターを夢見るダンサーたちの熾烈なオーディションを描くミューシカル映画。監督は「大脱走」「ガンジー」のリチャ-ド・アッテンボロー。
作品の出来も良く、正月にふさわしく、女性客中心に。
ポスターどおり、華やかな出だしから1986年新春を迎えました。

この調子で、2月は、「イヤーオブ・ザ・ドラゴン」です。
アカデミー賞に輝く「ディア・ハンター」のマイケル・チミノ監督作品。
ニューヨークのチィナタウンを舞台に、チィニーズマフィアと
一匹狼の刑事の戦いを描くバイオレンスアクション。
これも評判良く、
「コーラスライン」同様、堅調な興行。

上記の2作品、名匠で飾る、映画冥利に尽きます。
この映画冥利は、何度も、ここに明記されますが、
くどいと言わず、お許し下さい。
だって、映画好きには、これほど名誉なことはありません。
動員と、作品が、伴う、二重の喜びほど、うれしい事はありません。


やがて春休み映画となり、ティーンエージャー向けの
2本立のお出ましです。
1本は、スピルバーグ製作の
「ヤングシャーロック ピラミッドの謎」


若き日のシャーロックホームズとワトソンの活躍を
描いたミステリーアドベンチャー。
監督は、後に「レインマン」を生んだバリー・レビンソンの出世作でです。
スピルバーグが絡んでいるから、CG多様の娯楽作です。

また「エクスプロラーズ」は、

「グレムリン」のジョー・ダンテ監督の
手作りのポンコツ宇宙船で宇宙へと冒険に出る少年達のSFファンタジー映画。
組み合わせのいい2本立。
そら、もちろん、春休みにもってこい、
客足は、休みを通じて、満足のいく興行でした。


次は、ゴールデンウィークです。
「ホワイトナイツ」

「愛と青春の旅立ち」の監督が、ダンスの為、自由を求めてソ蓮を捨てた男と、
ソ連に亡命した男との熱い友情を描く。
実際に亡命したミハイル・バリシニコフと、グレゴリー・ハインズのダンス共演が見所。主題歌のライオネル・リッチーの”セイユーセイミー”がヒットし、
期待感など、ほぼゼロでしたが、目の超えた映画ファンに支えられ
女性中心に、まずまずの入りを見せました。
ふたりのダンス、リッチーの主題歌、ベストマッチな映画でした。


5月後半には、黒澤明原案の「暴走機関車」と、
アクション映画「デルタフォース」の2本立で男路線で勝負。

「暴走機関車」は、アラスカの監獄からの脱走者が貨物列車に乗り込むが、
機関士の死により、列車は暴走がとまらない、一体、どうする?
サスペンスフルな暴走アクション。
「デルタフィース」は、特殊部隊デルタフォースのハイジャック救出作戦。

男祭りな2本立。
でも、あまり男がなびかない。出演者が有名でないのが致命傷か。
ネームバリューがあるのは映画ヒットの必須条件のひとつでもあります。
それにしても、お客は、来ないよ~。

めげている暇はない。
さあ、さっそく、手当てしなけばいけない。
期待感ゼロだが、「ヒッチャー」で穴埋めをする。

これが、予想外に受けてしまった。
猟奇殺人鬼のヒッチハイカーを乗せた為に、執拗に追いかけられるハメに・・・。
これが、内容がとんでもなく面白い。
全編、手に汗握る展開、鬼気迫る悪役のルドガ・ハウアーの演技も評判と、
一気にこれでブレイク。その後、何度もリメイクされるなど、
今や、伝説の映画である。
小ヒットながら、拾い物が宝物に変わった。
だから、映画興行の面白さを堪能する出来事。
だから、30年以上経っても、この映画の残像は焼き付いている。
「ヒッチャー」の映像シーンの中でも、
車が急勾配な坂を登ってくると、見えない坂の向こう側から、
目前で、いきなりヘリコプターが現れるシーンは秀逸でした。
この手法は、その後のアクション映画の常套手段のように多用されています。


やがて、夏興行の開幕だが、
少々、心もとない作品を公開する。
全世界で超大ヒットを記録し、当劇場も潤った「E.T.」を配給会社があらためて
ニュープリントで、およそ4年を経て、再度、宣伝し直し公開するという。
いくら名作でも、4年過ぎれば、お客も足を運ぶわけがないが、
儲けさせたいただいた、配給会社のたってのお願い、全国的な再公開。
もはや、答えは出てますが・・・
はい、惨敗です。
今では、考えられない愚考です。
ディレクター追加編集版なら、いざ知らず、
「風と共に去りぬ」、「ローマの休日」のような歴史感のある映画とは
意味が違います。


穴埋めは、邦画「キネマの天地」のお付き合いです。

「男はつらいよ」の山田洋次監督、初めての山田洋次作品。
名誉なことですが、
内容は、1930年代の蒲田撮影場を舞台に、昔良き時代の映画作り裏話。
業界人は興味はあるが、一般人には、どうでもいいでしょう。
そら、お客は来ません。
正統派な映画ですが、山田ワールドですが、
一体、誰が見るのか?
こちらの予想も、山田監督に失礼ですが、はなから、わかっていたので、
ここは諦めの境地。
ちなみに有森成美がヒロイン。まばゆいぐらい美しいかった。

ここで、しょげてはいません。
8月下旬に、アーノルド・シュワルツェネッガー主演の
アクション映画「ゴリラ」が控えているからです。
初めてのシュワちゃん映画。

1984年に「ターミネーター」、翌年の「コマンドー」が大当たりして、
シュワちゃんは、一躍、時の人。アクションならシュワちゃん、
その勢いを持ち込みたいが、
タイトルにも不安あるが、映画見たら、
アクションがしょぼい。
「コマンドー」の後だから、なおさら。
あまりにも低予算過ぎる。
これは、製作費の大半が、シュワちゃんのギャラに消えてのでしょう。

併映には「南へ走れ、海の道を」。

岩城滉一、安田成美主演。
監督は、今では「相棒」でおなじみの和泉聖治。
復讐戦のアクションもの。
これもチープ。

この2本立。結局、シュワちゃん頼みだから、
ある程度の客は来たが、爆発さはない。
シュワちゃんは、その後、「プレデター」、「ターミネター2」が大当たりし、
この「ゴリラ」は、シュワちゃん作品の中でも封印されてますネ。

とても、とても、流れが悪い。
興行は、一度の大波に乗ると、次の波がまた来るのがよくある。
ギャンブルにたとえれば、ツキはツキを呼ぶのであるが・・・
前半の波は、穏やかな夕凪となってしまい・・・

秋の興行に期待したい。

そこで、
9月下旬に、スピルバーグの熱いメッセージ性あふれる、
「カラーパープル」の公開です。

ピュリツアー受賞の原作。スピルバーグが初めてのシリアス映画に取り組んだ
黒人がテーマのアカデミー賞狙いの人間ドラマ。

しっかりとした真摯な態度で撮った作品なれど、一般受けはしない。
入りは、散々ではないが、映画通のみ、
スピルバーグ、イコール、
やはり「ジョーズ」「E.T.」の娯楽映画のような映画を求める。
高尚な映画でも、まだ黒人が主には抵抗がある時代でもあったからなおさら。

ただし、興行はダメでも、
本作を上映する意味合いは、私にはあったと思う。
スピルバーグのシリアス映画の原点であるし、
その後、アカデミー賞作品賞にも輝く「シンドラーのリスト」に
繋がったのであるから・・・
私、スピルバーグファンには、後悔などあろうはずがなく、
光栄の至りです。


こうなると、
娯楽作に頼るしかない。
ホラームービー「ポルターガイスト」の2弾と、
刑事アクション「LA大走査線 狼たちの街」の2本立。

何か、安い組み合わせ。
「ポルターガイスト2」は、1作目に関わったスピルバーグはいないのがつらい。
「LA大走査線」も、「エクソシスト」「フレンチコネクション」のウィリアム・フリードキン監督なれど、見せ場はフリーウェイの逆走カーアクションぐらい。
案の定、かんばしくない入り。
わかってはいるが、そこそこも行かない。

落ち込んでしまう。
5ヶ月ほど、低迷。
あまりにも長過ぎるていたらく。
売り上げあって、経営は成り立つ。
これでは、私の役目は果たせていない。
イライラするが、次へ向かおう。

こうなりや、
1987年正月映画に賭けるしかない。
「キングコング2」です。

「タワーリングインフェルノ」のジョン・ギラーミン監督の
「キングコング」の第2弾。
これが、がっくりの出来の悪い作品。
それでも、決めた以上、上映しないわけにはいかない。
このジレンマ。
自信を持って、これはいい作品です!と言い切れて、胸張って、
興行を出来ないつらさ。
ブランド力で、数字は手堅いが、
何か、お客様に対し居心地が悪い。

そこへ、2月の次作品で、アホな上塗りをすることになる。
「白日夢2」である。
大ヒットした「白日夢」の評価は悪かったので、
なびかない。もう、この映画は、何の記憶もない。
それ位、記憶を消去したのだろう。

春休みにも、気が狂いそうなほどの映画が待っている。
「グレムリン」の二番煎じ、クリチャー映画「クリッター」、
ハリソン・フォード主演の「モスキートコースト」の準備されているが
もう、答えは出ている。
ダメとわかっているが、配給会社とのお付き合い。

去年の夏から、今まで、長い暗いトンネルを走り続けている。

そんな時。
ここで、横道がはずれるが、
某地方テレビ局のディレクターから、
4月からの番組改編で、
毎週金曜日、夜10時から30分生放送番組の司会と放送作家としての依頼。

落ち込んでいるいる時に限って、あらぬ方向から依頼。
それまでも、1年間、毎月15分番組1回の製作の実績、
その後も単発で、レポーターもやっていたので、
そのディレクターとお付き合いの経緯もあり、
ほぼ素人に近い者に、たってのお願いとは・・・。

本業の映画館経営は、
不入り状態の時に、さすがに心の余裕がないどころか、
赤字が続くという、先行き、目の前の状況に、
これを受けている場合ではないのが現状。
これは、悩んだ。
ただ、直感は、”受けるべき”はあったが、
理性が留める。

でも、やりたいことはやる、
来る物拒まず、
そうやって、タウン誌も過去のテレビ番組作りも、安請け合いしてきた。
何の自信もなかったが・・・

やって失敗した後悔より、やらなかった後悔の方が大きいと思っていた。
だから、常に、チャレンジ精神のスピリットがなくなれば、
ただの生きてるだけじゃないか!の方がつらい。
安全の道より、不確かな道に魅力を感じる性格も、そこにはあった。

結局、承諾。
その承諾を受けた時、
予期せぬ朗報が飛び込んできた。

5月公開予定の「プラトーン」が、
その年のアカデミー賞最優秀作品賞を受賞のお知らせ。
いきなり、春の陽射しが差し込んできた。
この「プラトーン」に賭けるしかない。

うれしい気持ちが、余裕になり、
テレビ番組作りのコンセプト、内容にも思考をめぐらせた。
ディレクターとの打ち合わせは数度ほどで・・・。
勢いでやりますかな心境。

番組は生放送。
毎週金曜日夜10時からの30分番組。
内容は、ディレクターとすり合わせして、情報バラェティ番組としたが・・・
放送期間は、
な、なんと、三ヶ月程度と思ったが、
1年間のロングランという。
週1回で、計50回放送回数・・・。
大河ドラマとはいわないが、やはり、
1年間でっせ!

本業の映画は、当時、土曜日公開であったから、
映画公開とかち合えば、金曜日は忙しい。
そのあわただしい仕事を終えてから、夜10時の生放送。
テレビ終わりの翌日は、土曜日。
当時は、映画上映がオールナイトの朝までお仕事がある。
これはえらいこっちゃ。

また、月刊タウン誌の仕事もある。
これを、ちゃんとして、手抜かず、三つ巴の戦い、戦場に上がる。
大変な決断をしたものだと、
今更に、思う。
若さのエネルギーは半端ないものだ。

映画館話から、しばし。
テレビ番組作りに、ちょっとお時間下さい。
1987年、4月からの放送が始まる。
番組タイトルは私が考え、”生放送!三重ちゃった”。

初回の番組構成をこうだ。

冒頭から、何でもベスト3。レコード、本、海外旅行ランキング(LALのパイロット、アテンダンドのコメント付き)等で、テンポよく情報から始め、
県内のここ1週間の情報(地方ネタに特化しないのでは意味がない)、
ここからは仕掛ける”家族対抗!晩ごはん合戦”で、
二つの家族の晩ごはんに押しかけ、料理の採点をし競う内容。優勝者にはオリジナルの晩ごはん茶碗をプレゼントを。
また県内の道行く美人を取り上げる”県内見返り美人”など。
その後も、”開かずの踏み切り尻取り歌数珠繋ぎ!”は、
長時間開かない有名踏切で、先頭の車の運転手に”あ”から始まる歌は?と、
面食らいながらも、次々、歌ってくれる。
今じゃ、絶対出来ない危ない企画。もう、すべてゲリラ。

とんでもない企画だが、そんな大胆な企画はワンポイントにして、
全体的には地方の情報番組に徹しました。
提供の大手スポンサー(電力会社)にも気兼ねしました。
人伝に、その番組の有識者会議では異論は出たという(社長自ら)、
そこを大手スポンサーがとりなしてくれたとか・・・。
人伝に噂は入ってきました。
まあ、ひるむような性格じゃないから・・・

また本題に。
そのテレビ番組を始めてた頃に、
興行は、待ちに待ったアカデミー賞作品賞に輝く、
ゴーデンウィークに光射す作品を迎えることになる。
「プラトーン」だ。

ベトナム戦争、最前線。地獄のような戦場と兵士達の苦悩を描く。
監督はオリヴァー・ストーン。主演はチャリー・シーン。
アカデミー賞作品賞もあるが、ベトナム戦争の真実を暴く話題性もあり、
男性を中心に、強い動員力を見せる。
内容が伴う、口コミもいい。
週ベースは、落ちのない興行。
今年になって、初めての喜びである。いい作品と、入り。
上滑りしていた気持ちが、安堵もあるが、
映画館としての充実感が、次の作品にも遭遇する。

それが、
今も語り継がれる、
「スタンド・バイ・ミー」
です。

それぞれに家庭に問題を抱えた4人の少年が、線路伝いに冒険の旅に出る。
監督は、ロブ・ライナー。この映画で、リバー・フェニックスが一躍注目される、
大きなドラマもないが、鮮烈に心に残る作品。
この作品に出会えた喜び、映画館人生の中で、忘れられない数少ない作品のひとつ。
入りは良く、大ヒットとまではいかないが、コンスタントな興行だった。

この映画は、上映終了後に日増しに「スタンド・バイ・ミー」の評価は
うなぎ上りとなった。
今も語り継がれる名作です。
上映できたことは、誇りのひとつです。ありがとう。

「プラトーン」、「スタンド・バイ・ミー」の流れに、気をよくし、
7月中旬、マイケル・J・フォックスの「摩天楼をバラ色に」と
「恋しくて」の2本立。

両作とも、アメリカでは大ヒットしたが、日本では、そうはいかない。
「摩天楼・・・」のおかげで、そこそこの入り。仕方がない。

ここは、次作、8月お盆に「ハチ公物語」です。

飼主の大学教授が亡くなってからも、渋谷の駅で主人を待ち続けた、
けなげな忠犬ハチの実話に基づく物語。神山征二郎監督、脚本・新藤兼人のタッグ。
もちろん、泣かせます。ハンカチは必需。
大当たりです。
公開前、業界もヒットするとは思っていないが、
フタを開ければ、おったまげ!(古い!)
やはり、この子犬のポスターの可愛さは、惹きつけますネ。
口コミよく、評判は評判を呼んで、好調な興行でした。

ここで迎えるのは、
日本で本格的なカーアクション映画に取り組んだのが、
「この愛の物語」です。

中村雅敏、根津陣八、藤谷美和子、そして近藤真彦たちが、
カーアクションをメインに、スタントマンたちの姿を描く。

併映は、「さらば愛しき女よ」。

ヤクザ役に、郷ひろみ。共演は石原真理子のバイオレンスムービー。

ほぼ、「この愛の物語」の吸引力です。
この手は、お客様も興味を待たれます。地方が強い組み合わせです。
力強い興行。

さらに、娯楽作が続きますが、
10月には、F1グランプリ映画「グツバイヒーロー」と、
おなじみシリーズ「グローイングアップ7」の2本立。

「グッバイヒーロー」は、世界最速を決めるF1グランプリの模様、
サーキットに散ったレーサー達の姿などを描くドキュメンタリー。
もう、シリーズ最新作「グローイングアップ7」は飽き飽き鮮度はないが、
この2本立の妙味で、まずまずの入りを見せる。

秋戦線は、娯楽作で見事に乗り切る。

ここで、一呼吸を入れる意味で、名作を試みた。
「十戒」です。

1957年製作の”モーゼ”を扱った宗教映画。
「ベンハー」と共に名作のひとつ。
クライマックスの海が真っ二つに割れるシーンが売りだが、
絶対ファンを惹きつけて、これも手堅い。

そろそろ、1988年正月が待ち構えているが、
また横道はずれて、テレビ番組、出演話にシフト。
まあ、箸休みと思ってくだされば幸いです。

4月からの毎週金曜日夜10時からの30分情報番組は、
11月でおよそ28回と、きちんと休まずに、出てましたが、
生放送番組では、ありえない行動をとっていました。
それは、
私は生放送夜10時開始時間の10分前に、
その地方テレビ局に到着して、打ち合わせもしない、台本も見ない、
そのまま、着くなり直接、スタジオに入りをしていました。
こんな行為は、普通なら、絶対、許されないことでしょう。
早めに楽屋入りして、打ち合わせが、各局では当然でしょう。

でも、当初は、私も不慣れもあって、
1時間前に入っていましたが、なんか、しっくりこない。
緊張感や、馴れ合い感が、薄らいでいく。
絶対、遅刻はしません!の確約で、
本番10分前が許されていたのです。いや、本心では許してないでしょう。
しょうがないかでしょうネ。

すみません。身勝手で。

とにかく、
この間は、日々、頭をフル回転している。
本業の映画館、タウン誌(これは、やり手編集長がいるから安心)、
テレビのネタ、出演と、めまぐるしい。
それも彼女もいるから、彼女には苦労をかける。
逢える時間が夜しかない。でも、愚痴ひとつ、こばさない。
応戦してくれる気持ちが、たまに切なくなる。
私生活を犠牲ではない、私は好きなことだから、
ただ、彼女の立場にたったら、たまったものでないだろう。
あの状況が、今のすべてに繋がっているのだから、今更に感謝しかない。

また、母親もさりげない気配りをくれる。
いきなり電話で、”アンタの着物を作るから、寸法測りに実家に帰れ”とのこと。
えっ、何で、着物?と思ったが、せっかくの親の好意に甘える。

着物作りの意味を、親から聞いたわけではないが、
確信ではあるが・・・、
私が、テレビ番組の生放送が正月元旦にあたる。
”じゃ、この着物、正月元旦だから、めでたいことだから、
せっかくの高価な着物姿を、番組で着よう!”と思い、
進行役の女性局アナにも、着物、着てよと催促すると、快諾。

ふたり、揃って、正月元旦の生放送、晴れやかに着物姿。
今では、いい想い出。

たぶん、いや、確実に親心、母心に、晴れ舞台に、着物を着て欲しかったのだろう。
母は、昔から着物好きで、そう感じたのは、
大晦日の紅白歌合戦で、都はるみが出てくると、
この着物、総絞りとか、これは高価や、大島紬とか、
そんな着物話が、毎年聞いていたので、
私の入学、卒業式の節目には絶対、着物姿で現れる。
それが、マザコンと言われそうだが、とても似合っている。
私は、母の着物姿が、とても好きだった。

とにかく、こういう経緯もあり、
私にとって、このテレビ番組を通して、私の着物姿を、母に見せられたのも
今でも感慨深いものがる。
父もそうだが、母には感謝しかない。
そう、小中高と、”勉強しなさい!”と言われたこともないし、
大学受験でも、どの大学受けるの?とも聞かない、受験料のお願いでも聞かない。
教育に無関心ではない、だって、父の職業が先生だったから、
希望はあったのだろうが、
子供の気持ちだけを優先してくれた、そんな父と母。
(さだまさしの歌♪が流れてきそうなので、ここで親話はやめます)。


本業の話に戻します。
お付き合い下さいましてありがとうございます。

1988年正月映画は、
スピルバーグ製作の「インナー・スペース」です。

ミクロサイズになった男が、体内に入って探査艇での冒険を描くSFXファンタジー。
監督も「グレムリン」のジョー・ダンテとスピルバーグのコンビだから、
期待もあったが、過去に「ミクロの決死圏」に似ているので、
そこそこで、正月映画としては、全然物足りない。

すぐさに、またスピルバーグ製作の
ニューヨーク東8番街の奇跡」を用意した。

古アパートから立ち退きを迫られた住人を
宇宙人が助ける感動的なSFファンタジー。
これが、評判いい。入りもいい。
正月のスピルバーグ製作の「インナー・スペース」のダメージを、
スピルバーグが助けてくれる、スピルバーグとは縁がある。
助かった。

2月には、「スタンド・バイ・ミー」でブレイクした
リバー・フェニックス「ジミー」、青春映画である。

17歳の青年が大人へと成長する過程を描く。
リバー・フェニックス頼みの興行。
併映に、マッド・ディロンとダイアン・レイン共演の「ビッグタウン」の2本立だが、補強作にもならない。
それでも、リバーファンが、
1週目はかなりの動員を見せてたが、長続きはしなかった。
リバー・フェニックス、1993年、23歳の若さで亡くなった。
「スタン・バイ・ミー」「ジミー」と、リバーに、ありがとうと言いたい。


春の到来。
「フルメタル・ジャケット」の登場である。

「シャイニング」以来のスタンリー・キューブリック監督が、
「プラトーン」に刺激されたのか、ベトナム戦争で徴兵された若者が、
次第に戦闘マシーンとして人間性を失っていく狂気さを描く。
「プラトーン」のような興行力はないが、
戦争映画好きを含め、ほとんど男性客で占められた。


この興行の最中、3月末に、1年間のテレビ番組を1回も休むことなく
無事に終えれたことの安堵感と達成感。およそ50回。
自分の人生の節目。
これを機会に、テレビ局とは離れることになった。
(まあ、大人だから、いろいろな事情はあるが・・・あえて触れません。)
*余談:番組を終えて、30年あまり、久々にあの時のディレクター(今や役員)から、テレビ局に覗きに来いよのお誘いから、訪ねるが、当時の社員は定年している。
見知らぬ人ばかり。ただ、あの時の若手社員がひとり、今や部長になっていた。
そのお方から、あの”タイズ!田んぼショック”は面白かったよ!のお声。
何か、救われたというか、少しでも爪痕を残せたんだな~と、感慨深い。
いい体験だった。
その答えが、30年過ぎても頂けるのは、人生冥利に尽きます。
ありがとうございます。

またまた横道、はずれまくりだが、
こんな経験も、映画館に縛られず、いろいろな人と関われた財産は、
何ものにも変えがたい。

感傷にふけっている場合じゃない。
本題に戻そう。

「フルメタル・ジャケット」の成績もまずまずで終了。
次作は、「ホワイトナイツ」のミハイル・バリシニコフの最新作、
「ダンサー」を公開する。

ダンサーと若きバレリーナの恋を描くが、
「ホワイトナイツ」のように客は来ない。
他館で上映終了した、「ラストエンペラー」を補強すると、
「ラスト・・・」のおかげで、何とかしのげた。

次は、「マスカレード」とゴールデン・ホーンの「潮風のいたずら」の2本立。
これも来ない。わかりきっているが、本当に来ない。

なだれ現象のように、次の一手、
もういいよの感じの「ポルターガイスト3」と、「スペースボール」の2本立。
これも、当然のように来ない。

三ヶ月間、映画館はすきま風が吹きまくる。
寒くない季節だが、寒気がする。悪寒がする。
人が来ない。
客足も途絶える惨状、
人気ない広大な荒野を、ひとりさまよっているみたいな心境。
つらい。

でも、
落ち込んではいられない。
夏休み映画が待っている。「マリリンに逢いたい」です。

恋人に逢うために3キロの海を泳いで渡る犬の実話の物語。
「ハチ公物語」の二番煎じみたいだが・・・。
これがですネ。
ドカ~ンとお客様が、家族連れでこぞって来る。
柳の下に二匹のどじょうがいる。
映画自体は、さほどいいとは言えないが、けなげな犬が愛らしい。
期待感もなかったから、
大ヒットするとは・・・なおさらの喜び。
三ヶ月の喪失感も、これで払拭できるわけでないが、
目の前の忙しさに、少し救われる。

夏休みの「マリリンに逢いたい」は救いの神。
でも、ここから、秋の興行は、
またしても過酷な日々を送ることになる。

公開する映画が、ことごとく不入りに陥る。
9月から正月映画までの無様なランナップです。
「スリー&ベイビー」と「ポリスアカデミー5」の2本立、
アクション映画2本立、「スコルピオン」、「シェイクダウン」。
ホラー映画、「13日の金曜日7」と「ゾンビ伝説」、いや。おぞましい番組構成。
11月には、邦画の「バカヤロー!」と迷走。
マイケル・J・フォックスの「再会の街」でダメ押し。
頭を抱え込む。

この年は、最悪の興行をしいられる。
テレビ番組を終えた達成感も、風のもずく。
秋の吹きさらし、冬間近の冷風が、
きしんだ心と体に、あえぐように竜巻を起こしている。

踏ん張らなければいけない。
坂道を、転がる石のように落ちていくのは避けなければいけない。
ここが正念場。

迎える1989年正月映画は、
「3人のゴースト」、「星の王子ニューヨークへ行く」の2本立。

「3人のゴースト」は、「オーメン」「グーニーズ」「リーサル・ウェポン」の
リチャード・ドナー監督のクリスマスファンタジー。
「星の王子・・・」は、「ブルースブラザー」のジョン・ランディス監督が贈る、
アフリカの王子が花嫁探しのためにニューヨークでの
バタバタロマンチックコメディ。

これが、大受け。

正月映画にふさわしい楽しくも笑える2本立は、高稼働を見せる。
正月の3ヶ日は大入り満員。
去年の厄払いか。
めでたい興行が続くが・・・・

元旦から7日目の事だった。

1989年1月7日、昭和天皇崩御の知らせ。
映画興行組合から、喪に服すため、その日の上映は打ち切るとのこと。
それを知らないお客様への対応に追われる。
当然、オールナイトも中止。

ただし、翌日の日曜日は、上映してもいいとのこと。
テレビは、朝から1日中、全局が、昭和天皇崩御一色。
忘れられない1日となった。

ただ、テレビが崩御一色、自粛ムードの中、
正月映画は好調を保ち、
次作の「ミッドナイトラン」を公開する。

ロバート・デ・ニーロ主演。
ニューヨークからロスまでの犯人の大陸横断護送の刑事アクション。
中味の評判がいいが、限られた客層。そこそこの入り。
デニーロとは縁があるから、いいチョイス。

ここからが、問題作が登場だ。
勝新太郎の代名詞、16年ぶりのシリーズ最新作「座頭市」。
監督・主演、脚本を兼ねて久々の「座頭市」なのだが、

これがやっかい。
この映画、撮影中に、勝新の息子(俳優)が、殺陣のリハーサル中に真剣で死亡事故を起こしたのだ。これが問題化され、また公開間際までの撮影、ギリギリ1週間前まで編集に追われた事で公開が危ぶまれたが、テレビ各局が取り上げたので、話題も高まり、救いは、予想以上に映画の出来栄えも素晴らしく、
フタを開けると、まずまずの興行を見せた。
この「座頭市」、勝新のアイデアが随所に見られ、
是非、一度、DVDでご覧下さい。
勝新の殺陣といい、才能をあらためて認識。

微妙な映画を公開すると、
映画館に変な空気が生まれる。
この世界に身を置くと、空気感を鋭く感じる。

常に生のお客様に接する接客業の職業病か・・・?
察知能力も興行感には大事なことだ。


気分一新。
手のひら変えて、今まで幼時までの映画に特化したことはなかったが・・・
思い切って、アンパンマンの映画化1作目という、
「それいけ!アンパンマン キラキラ星の涙」を上映する。
初めての試み。

今では人気だが、本作が劇場公開1作目。いやはや1989年か・・・。
当時は、テレビで少々、注目されたばかりで、原作者のやなせたかしが
突貫で作り上げた作品。園児関係の各団体から推薦映画でもあったが、
園児とその家族、幅の狭い客層ゆえにお客様は限られていた。
それより、ロビーが幼稚園状態だったのを覚えている。
これ、やってよかったのかと後悔もあったが、
今となっては、記念すべきアンパンマンの1作目を上映したことは
よかったと思う。

映画館は文化だ!みたいな思いあがりもあないし、
やはり、映画は、大衆の娯楽でなければいけないと思っていた。
ただし、問題定義の映画もなければ、
当たればいい、儲ければいい、ゲスな思考では
さっさと、この世界から足を洗っていただろう。
この「アンパンマン」は、自分を試した分水嶺、
リトマス試験紙みたいなような、そんな感じ・・・。

ちょい、理屈っぽい話になったので、
次に進めよう。

4月下旬から、「アンパンマン」から、がらりと変わり、
シガニー・ウェバー主演の「愛は霧のかなたへ」を。

マウンテンゴリラの保護に半生を捧げた女性学者の実話。
これは、はなからお客が来るわけがないとわかりつつ・・・。
でも、作品はしっかりしている。これはこれでいい。

この流れで、「告発の行方」を上映する。

女性のレイプ事件をきっかけに、真実の愛、友情、勇気を持って生きる姿を描く。
「トップガン」のケリー・マクギリスとジョディ・フォスターの熱演もあり、
予想以上に、客を集める。
テーマ性からも女性客が多かった。

ここで、打って変わって、
恐怖パニック映画「リバイアサン」を上映する。

沈没船と接触した海底採掘基地での恐怖を描く。
内容が「エイリアン」を訪仏させる二番煎じで、
お客様も食指を動かさない。賢明だ。
映画館サイドが言う立場ではないが・・・。

あれこれと、番組編成のむずかしさを相変わらずだが、
配給会社とのしがらみは長年に渡ると、いいことも含め、
ダメな映画とわかっていても、お付き合いが発生するのである。


ここで、昭和に残る歴史事件、二、二六事件の実話に基づく
「226」の公開をする。

オール豪華キャストで、昭和映画の歴史を飾る五社英雄監督が
「226」で、どのように描くのが興味津々だったが、
新たな視点はなかった。今は当たり前の映画ファンドの記念すべき1作目でもある。
テーマ性から、高齢者のお客が多く、若者は見向きもしなかった。
それでも、手堅い興行力を見せた。

ここまで、正月映画が大ヒットしたが、他は少々、心もとない興行。
これを打破したのが、夏休み映画だった。
アーノルド・シュワツェネッガー主演の「ツインズ」

共演に、コメディでおなじみのダニー・デビード、
その上、二人が、双子の設定というのが面白い。
監督も「ゴーストバスターズ」のお方。
シュワちゃんのコメディとあって、アクション好きな方、
女性、カップルと、映画館は、多くのお客様であふれました。
やはり、映画館が活気に満ちると、
私も活気がみなぎってきます。

お客様の入りは良薬でスね。

一安心したとこで、
秋戦線に突入しました。
ここで、何を持ってきたのか・・・

ビートたけし、
いや、北野たけし監督の記念すべき
伝説の「その男、凶暴につき」の公開。

当初は、この映画、ビートたけし主演、
監督は深作欣二で進められていたが、スケジュルが合わず、
急遽、たけし自身でメガファンをとることになった。
何が幸いするかわからない。
捜査の荒っぽい異端刑事の暴力描写が、たけしの感性が光った映画。
取立て話事態は弾まないが、過去にないリアル暴力は、
映画界に一石を投じたどころか、波紋を投げた。
予想以上にお客を集め、たけしの演技、監督ぶり、
この成功が、
今の北野たけしブランドを築きあげた記念すべき1作目。

このような映画を上映できたのは光栄である。

この光栄の連鎖は、違った意味で現れる。
次作の「ブラックレイン」である。

大阪が舞台。主演はマイケル・ダグラス、高倉健、そして遺作となった松田優作。
監督は、「ブレードランナー」「エイリアン」のリドニー・スコット。
このメンバーだけで、ワクワクする。
偽札事件を追って、アメリカ、日本の刑事が、裏で牛耳る松田優作を追い詰める。
話は定番だが、リドニーの映像のこだわりは半端ないし、
優作の鬼気迫る演技は、迫力にあふれる。

公開二ヶ月前に試写会で見たが、確かにいい、よく出来てる。
だが、牽引するストーリー性はない。だから、私は大好きな映画でもあるが、
自らの勘は、そう来ないかも・・・。
でも、期待したかった・・・。
当たらない方が良かった勘は、やはり、お客は来なかった。

だが、
上映1週間後、突然、予期せぬ、”優作、死す”の悲報がもたらされた・・・。

皮肉にも、この情報がメディアなどで連日取り上げあれ、
悲報翌日から、映画館に連日、客が押し寄せてきた。
私も根っからの優作ファンだったから、悲しくも複雑な心境に陥るが・・・
あらためて、優作の存在感を思い知る。

「ブラックレイン」は、優作の遺作でもあるが、
私にとっても、この映画館人生で、1番、想い出深い映画となった。

この映画を上映出来たしあわせ。
今でも、つい、見てしまう。それでも、色あせない。
この映画の、言い方は良くないが、
私は、”色気のある映画”だと思う。
これは、当時の試写会後の気持ちと何一つ、変わらない。

悲報後、わかったことだが、
撮影前に病状発見だったが、治療より映画を選んだという。
撮影中、優作は誰にも、病状は言わず、般若心経を毎日書いて、
この映画を向き合ったそうだ。
この逸話を聞いて、覚悟の映画だったのだ。

それを”色気のある”、たとえは不謹慎だが、
優作がもたらした、渾身の魅力ではなかろうか・・・。
ありがとう、優作。
「ブラックレイン」、ありがとう。


1990年正月映画前のつなぎ作品として、
「ベストキッド3 最後の挑戦」を公開する。

「ベストキッド」シリーズは、今まで他館が上映していたが、
こちらにお鉢が回ってきた。
もういいよの感は否めないが、根強いファンはいるもんだ。
ま、「ベストキッド」に関わっただけでも良しとするか。

さあ、1990年正月映画のお出まし。
シリーズ2作目、「ゴーストバスターズ2」の登場だ。

PART1に比べれば、製作費はかけているが、
内容が伴わない。こんな時はつらい。
大ヒットの2作目だから、間違いなく稼動する。
でも、素直に喜べない。
お客の鑑賞後の顔を見れば、一目瞭然。
お客様は来る。
心は晴れない。
贈り手側の立場として、正月早々、気分はいいものではない。

映画は、すべていい作品ではない。
皆さんも、それはわかっている。
どうだろう・・・。何本作品みて、当たりになるのは、数少ないのが実情。
この繰り返しに、懲りずに来ていただけるお客様には感謝しかない。

そんな心境のときに、難題が持ち上がった。

また余談だが、
タウン誌発行は10年の節目を迎えていた。
その時は、もう軌道に乗っていたが、
7年目あたりから企画がマンネリ感は否めかったが・・・。

10周年。
その終焉は、私の力不足、意思の疎通から生まれたもなだが、
突然の廃刊を、スタッフ一同で決めた。
負債があるわけでもないが、統一がないのでは、
このまま走り続けても、もっと最悪の結末に陥る。

みんなの同意で、タウン誌を閉じることになった。

私の友人は、「オマエの信用は無くなるで。」の言葉は響いた。
誰かに金銭的に迷惑はかけてはいないが、
周りに支えられ培ったモノを辞めると言う事は、
無責任の烙印が押されることはわかりつつも、
友人のその言葉は、私のその後の人生の教訓となった。

テレビ番組を終え、タウン誌も廃刊とし、
本業の映画館が残るのみとなった。

そうなると、不思議なもので、
たとえだが、今まで100人いた取り巻きが、
気付いたら、30人になっていた。
人はまたたくまにいなくなった・・・。
よく芸能界で、人気が凋落すると、またたくまに手のひら返したように
一気に周りの人たちがいなくなったという話はよく聞くが・・・
それを見事に体感する。
やはり、利害無き者には用済みということか。

昔、小学5年生の時、地元の仲間たち(先輩、後輩)と、川遊びしていたときに
私が、他校の中学生にからまれ、川の中の水中で殴られているのに、
誰も救いの手を差し伸べてくれる仲間はいなかった。
(水中で殴られる痛さより、何故、誰も助けないの?の方が冷静な記憶は、
今も尚、鮮明に覚えている。)

私に人望がないことを、そうさせたのか・・・
不徳の致すところかもあるが・・・

小学生の苦い記憶と、
今、離れていく人たちに、何ら関係はないが、
どこか、リンクしてしまった・・・。
だから、”人間嫌い”とまではいかないが、
特に一人を好むことに、内向きになったことは言うまでもない。
でも、映画には救われている。
愛する映画館があるが・・・

弱り目に祟り目。
また、そこに不出来な作品を上映する上塗りをすることになった。
「大霊界2」である。
丹波哲郎の1作目が、死後の世界を描き大ヒット、その2作目。
1作目で、お客が懲りているのに、おもやの再度。
それでも、そこそこの入り。でも、早々と打ち切る。

汚名挽回とばかりに、名匠ブライアン・デ・バルマ監督の作品、
「カジュアリティーズ」を上映する。

マイケル・J・フォックスとショーン・ペン主演。
ベトナム戦争下、兵士がベトナムの少女誘拐レイプ事件の実話の映画化。
ともかく、作品の出来はいいが、あまりにも暗い。
映画好きだけの入りに、
まあ、しょうがないかとあきらめる。

この地味な流れの中で、春休み映画と相成る。
「ミクロキッズ」である。

父親の発明した機械でミクロサイズになった子供たち4人の大冒険。
かんたんで明確なコンセプトに、家族連れも含め、
大いに映画館はにぎわう。
楽しい映画は、ロビーも場内も、キラキラな春風が舞い込む。
外は桜も満開。場内も満員。

今年になって、いろいろあり過ぎて、落ち込むことも多々あるが・・・
私の少し朽ちた心の中を、
ひと時のなぐさめのように桜吹雪が舞っている・・・。
映画の魔力、いや魅力に救われている。
それは、娯楽作に堪能するお客のお顔に見れるということ・・・。
共有してる、映画のなせる業。
ありがたい、「ミクロキッズ」でした。

で、次は、渋すぎますが、
「ファミリービジネス」と、「恋人たちの予感」の2本立です。

「狼たちの午後」などの巨匠シドニー・ルメット監督作品。
ション・コネリー、ダスティン・ホフマン主演。
豪華な顔ぶれなれど、ニューヨークの犯罪一家のお話。
テーマが日本人には付いて行けない。


「スタン・バイ・ミー」のロブ・ライナー監督。
男女に友情関係は成立するか?
何といっても、主演のメグ・ライアンが可愛い。
作品もいい。
なれど、お客は来ない。
映画通にしか好まれない作風は、しんどいネ。


こうなりや、
世界のクロサワと、製作にスピルバーグと、
最強のタッグで挑む「夢」を公開する。

黒澤明監督作品を初めて上映できる。
名誉なこと。うれしい。
それも、製作にスピルバーグと、もう言うことなしです。

いくばかりかは、期待したところですが、
作品は8話のオムニバス映画。
1話、1話、こだわりのクロサワ・ワールド。
内容よりも映像にこだわりすぎか・・・
アート感がたっぷり、満腹なほどの芸術映画。
一般人には酷な展開。
興行には力強さはなく、でも気落ちはしていない。
だって、クロサワ映画を上映できたのですから・・・。


さあ、気分を変えて、夏休み映画到来。
ウキウキと言いたいが、上映したくない映画をやらされるハメになる。
「クライシス2050」。

チャ-ルトン・ヘストン、日本から別所哲也のSFアドベンチャー。
これが、とんでもない出来。
公開するのが恥ずかしい。安の上、大コケになった。
それでいい。
興行を預かるものが、その言葉は禁句だが、
これは、とんんでもなくいただけない作品です。

さっそく手当てに、
シリーズ2作目「ロボコップ2」を公開。

激闘CGはスケールアップしたが、インパクトは1作目に及ばない。
それでも、「ロボコップ」です。
メカアクションファンは多い。
夏休みを、これでしのぐ。


秋には、ビートたけしの「その男、凶暴につき」に次ぐ2作目。
摩訶不思議なタイトルの「3-4×10月」。何、ソレ?ですかネ。

これが、アートしまくり。
観客無視な映画。
「その男、凶暴につき」的な映画を期待したファンは
うなだれ帰路につく。ごめんなさい。
北野たけし、趣味に走る。
場内ガラガラ、映画館は、えらい目にあう。


そこで、女性向きに10月後半に、「続・赤毛のアン」を上映。

名作「赤毛のアン」の映画化の2作目。
総じて、評判は良かったが、1作目の入りには及ばない。
やはり、新鮮さが欠けていた。
メルヘンに、”続”はダメですネ。

ダメダメが続く・・・

この年は、プライベートや、タウン誌廃刊などで、厄年のように乗り切れない。
いらだってはいないが、
波も来ない、来ても、たぶん、うまく波を乗ることはできないような
自信のなさが、心のキワをフワフワしている。
情けない。

でも、映画は、前に進むしかない。
平常心がないままに、興行は休みがない。
そして、1991年正月映画を迎える。
大ヒット映画のシリーズ2作目、
「ネバ-エンディングストーリー第2章」を公開する。

大ヒット映画シリーズなのだが、内容が1作目には程遠い出来。
でも、1作目の大ヒットの恩恵で、家族連れのお客で満員。
1990年正月映画「ゴーストバスターズ2」状態に等しい。
人は来るが、内容は応えられない悲しさ。
映画館にいても、落ち着かない。
ちょい、逃げ出したくなる。
”ごめんなさい。”。と、鑑賞後の人たちにあやまりたいほど。
空しい。

興行につきものの、お客は来るが、期待に応えることも出来ない。
これがあるから、常に胸を張れない、映画館経営。

ならば、これでどうだ!
「ニキータ」です。

政府に仕立てられた女性暗殺者のアクションと苦悩を描く。
監督は、リュック・ベッソン。
そうです、その後の名作レオン」の基になったといってもいいでしょう。
入りも、まずまず、
出来栄えも良く、スタイリッシュで、
「ニキータ」は今も語り継がれています。
これは、心地いい気分です。

この雰囲気で、映画好きを虜にしましょうとばかりに、
「運命の逆転」を上映です。

主演は、グレン・クローズ、ジェレミー・アイアンズ。
渋いコンビ。法廷心理サスペンス。
うまくまとめられた内容で、さほどお客は来なかったが、
「ニキータ」の後釜としてはいいでしょ。

そうこうもすると、
もうすく、春ですね。
気分が前向きになってきました。
遂に、私、動き出します。

20代からずっと思っていたが、たたのあこがれで終えることの
実践しようと、奮いたたった。
それは・・・
映画を作りたい。ショートムービーでいいからと。

振り返れば、10代後半、小椋桂の音楽など聴いていると、だんだんと・・・
その音楽に合わせて想像の画像を頭の中で描く癖がついつい出来てました。
だから、その後は、どうで映画作りは出来ないが、
想像の域で、こんな映画作りたいな~みたいに、
これまた頭の中で、脚本作り、カット割してましたから・・・

だから、そこは本腰です。
思い切って、本格的なカメラを100万円(大金)で購入しました。
ここまでお金をはたいたら、やるしかないでしょう、自分の尻を叩くつもりで。
追い込みです。

まずは、手始めに、知人の紹介から近々結婚するカップルの
無料で、結婚なれそめビデオに着手した。
当人や親族にも出演してもらい、
結果、我ながら、なかなか、面白い結婚ビデオを製作した。
手鳴らしのためでもあったが、当人達も喜んでいただき
パッケージも作り、きちんとした商品にもなりました。
これを、映画館経営以外、副業にしても良かったが、
これは、たぶん、いずれ、飽きてきて(何故なら、結婚ビデオには定石がある)、
途中で放り出すのは避けたかった。

そんな時、テレビ局のTBSが、アマチュア映像コンテストの
「三宅祐司のえびぞり巨匠天国」という深夜番組をやっていた。

この番組は、あの伝説番組「三宅祐二司のいかすバンド天国」、
愛称「イカ天」と呼ばれ、アマチュアバンドのコンテスト。
勝ち抜き優勝者にはメジャーデビュー約束され、
その結果、”たま”などが排出されました。
深夜ながらも、またたくまに人気番組の仲間入り。
ブームメントを引き起こしました。ただ、新たな起爆剤のバントが現れず、
視聴率も下降気味になり、番組を閉じることになりました。
その後釜に、「えびぞり巨匠天国」が誕生しました。

イカ天と同じく司会は三宅祐司だが、
アシスタントに局アナの福島弓子(今は、イチローの奥さん)。
審査員の中には、「時をかける少女」などの大林宣彦監督もいた。
審査方法は、テーマは自由で、アニメもOKで、ただし上映時間は、
3分以内が条件でした。
まずビデオ送って10選に入れば即、銅監督、番組審査で銀監督、
次作品でさらに金監督をめざし、遂に頂上の巨匠監督になれば、
ご褒美に、映画を作らしてもらえるという番組構成でした。

これは、自分を試す、もってこいの番組。
番組を何回を見ていると、相当、レベルが高い。
そら、全国からの応募だから・・・
趣味もいれば、血眼で、この番組で東京への足がかり、きっかけを求めている人は
全国に、山ほどいたのだろう。。

でも、面白いじゃないか。
大した才能はないと思いつつ、参加する意味はある。

今から、製作にかかると時間がかかるので、とりあえず、試しに
早速、前記に記した”結婚なれそめビデオ”を、試しにTBSに送ってみた。
どうせ、無理だとあきらめていたら、な、なんと、
1週間後に、ディレクターからの直接のお電話を頂きました。
”10選に選ばれましたので、収録のこの日、来れますか?
交通費、宿泊代もこちらで持ちますから”と。

あきらめていたから、青天の霹靂。
そら、出るでしょう。
即答です。

いざ、東京出陣。
スタジオには観客を入れ、準備万端。
大した打ち合わせもないまま、いざ、本番。
私は、10人中の2番手。
三宅祐司のやりとりが、意外にもウケル。笑いが生まれる。
地方局で実績を積んだといえ、ここは東京、主戦場。
え~っ、このキャラ、東京でも、TBSでウケル。
いけるじゃん!と、キャラは受けたが、
残念ながら、作品は、この番組のために作ったのモノでもないから、
自信はなかったが、審査員だった大林宣彦監督から、
厳しい評価をいただく。
あの尾道3部作などの名匠、大林監督からの洗礼は、
片田舎の私にとって、想い出深いシーンでした。

審査結果は、案の定、銅監督止まり。
銀監督に選ばれたのは3人程度だったか・・・。
全国から選ばれた映像作りの達人が顔を揃える。
この激戦は半端ではないことを悟った。

東京の帰路。
結果に落ち込んではいなかった。
この番組用の独自性のある作品を作り上げ挙げなければ、
今後、出る意味がないとも思った。

映画館経営と、ショートムービー作り。
今までも、テレビ番組、タウン誌と三股も兼ねていたので、
むずかしい時間割ではなかったが、
東京進出狙いの意気込みは、鼻息が荒かった。

さあ、映画作りだ。
これが、これが、いざ、始めると大変な作業に追い込まれていく・・・。

映画は、春休み映画に突入。
スピルバーグ製作の「アラクノフォビア」を公開。

大量の毒蜘蛛がアメリカ本土を襲うパニックムービー。
これはいただけないコンセプト。古すぎる。
スピルバーグ製作のブランド力も、「インなースペース」あたりから失速気味。
想像を超えるほどにお客はなびかない。

ここで、本格作を持ってくる。
「ラストエンペラー」で名を挙げたベルナルド・ベルトルッチ監督、
坂本龍一が音楽の新作、「シェルタリングスカイ」を公開。

1947年、サハラ砂漠を舞台に男女の物語。
作品が渋すぎる。
ターゲットが絞りきれていない、ただ闇雲に
前が中国なら、今度はアフリカが舞台みたいな、
芸術臭さがプンプン。
そら、来ないわよ。

悪い興行の循環の中で、
「えびぞり巨匠天国」の映画作りも精を出すが、
あまりに不入りに、気が重い。
経営状況が良ければ乗るのに・・・そうはいかないの
神様が、そんなに人生、甘くないと諭しているのだろう。

でも、矢は放たれたている。
ショートムービーの脚本作りは出来上がり。
撮影時間枠は早朝だけに絞り、撮っていく。
これが、まあ大変。限られた時間。
ワンカット、ワンカット、一月かけて作る。
出来た作品は、タイトル「枕」です。

早速、作品をTBSに送ります。
早々にディレクターから、ご返事があり、収録日を言われます。

その間にも、映画館公開映画は
前の悪い流れを断ち切る作品が登場です。
「レナードの朝」です。

ロバート・デ・ニーロ、ロビン・ウィリアムス主演。
30年間昏睡状態から目覚めた患者と医師とのヒューマンドラマ。
作品の出来は素晴らしく、感動的。
それに応じて、お客の入りも良く、私の心も気分上々。

その最中で、東京へ行く。TBS番組の本番。
かなり力の入った作品と自負しながらも、どこあ不安は入り混じる。
これが、オンエアの「枕」です。(ここをクリック

2回目の銀監督狙いです。
またもや、出番は1回目同様、2番手の登場。
出るなり、三宅祐司と一言二言、交わした瞬間、
今でも鮮明に覚えていますが、
”あれっ、前回とは違う、スタッフの空気を感じた。
それは、私のこのキャラ飽きられてる”、勘でしょうネ。
とっさにそう思ったのです。
東京という百戦錬磨のスタッフの眼力というものでしょうか。
もう、見切られた。
自分なりに、勘がするどい方だから、
映画が当たるかどうかも、ほとんど見抜けてました。
それがいいのか、悪いのか。
ここまで書いてきた映画の予測も、前記にも記したように現れています。

まあ、それはいいか、作品を見てもらえればいい。
何も、芸人を目指しているわけでもないからと、
気分を持ち直し、この感覚は10秒程度の瞬間的なもの。

三宅祐司とのやりとりも無難にこなし、いざ、「枕」が流れる。
審査員からの評価は総じて悪くない。
一人の外国の審査員は、”いいですね。特に演技がいいです。”と褒めてくれる。
そう、私が主演で出ずっぱり。
うれしい評価。

結果発表は番組の最後に。
それが、な、なんと、”銀監督”に選ばれました。
天にも昇る気持ちとは、この事でしょうか。
これも、今でも鮮明です。30年近く経っても・・・

まあ、冷静に見ても、ギリギリセーフの銀監督とは自覚してましたので、
次の上の”金監督”めざしての作品が、
真価を問われることは重々、承知はしていました。
覚悟を持って、すぐさに脚本作り。
と、言いたいが、
ここは頭を切り替えて、興行にも力を入れる。

いくら「レナードの朝」で、ひと安堵といえど、
そう長くは、ロングランは出来ない。
そこで、番組の審査員だった大林監督に厳しい評価を受けのもそれが縁かどうか、
一度は大林監督映画を上映したい希望は前からあったので、
新作の「ふたり」を補強して2本立にする。

「時をかける少女」などの尾道3部作をはじめ、
心揺さぶる大林監督の世界観はとても好きだ。
この映画は、不慮の事故で亡くなった姉が幽霊となって妹に現れ、
ノイローゼの母、浮気する父、問題ある家族が、姉妹の絆で乗り越えていくお話。
大林監督映画の中では、1番好きな映画である。サントラも買った。
エンドロール曲は大林監督と音楽を担当した久石譲のデュエットの”草の想い”、
ラストにふさわしい名曲です。今でもお気に入りです。

趣味的要素な興行では、後ろ指さされそうですが、
「レナードの朝」と「ふたり」と、洋画、邦画の組み合わせは
相乗効果は生まれませんでしたが、映画好きには理解してもらえたと思います。
まあ、興行者としては失格の烙印を押されてもしかたがありませんが、
なりふりかまわず、商売ばかりに目を行っては、振り回されてしまいます。

映画好きが、興行をやるのはご法度かもしれません。
こんなことを言うのは気が引けますが・・・
驚くなかれ、私の周りの興行関係者には数人しか映画好きはいないのは事実でした。
試写会で寝てる人、自館の映画でさえ見ない人もいるし、
他館まで行って、いろいろな映画を見ることもない。

私の興行人生で、映画を語り合える人は、指折り数える程度なのが現実です。
悲しいことですが、大多数が、就職の手段として、ただ、最初は映画が好きで、この世界に身を投じたのでしょうが・・・変遷したのでしょう。

ただし、映画製作に携わる人たちは違います。
根っからの映画好きは間違いありません。
主演、監督にスポットが当たるのは仕方ないですが、
あまり陽が当たらない、端役、助監督、照明、美術、衣装、編集などの
幾多の熱いスタッフに支えられて映画は生まれるのです。
それも心血を注いで。お金を目がくらむわけでもなく。
だから、今も、商業主義に走らない映画はごまんとあります。
それが救いです。

なんか、変な方向の話にいきました。すみません。

またまた話を戻して、
次作の映画は、ハリソン・フォード主演の「推定無罪」を公開します。

不倫相手が殺され、ハリソン演じる検事が嫌疑がかかり裁判をかけられる。
果たして、無罪を勝ち取れるのか・・・。
最後のどんでん返しは、いいですよ。

だけど、お客は来ない。
他館の「羊たちの沈黙」にお客をとられている。
仕方がないか。

夏興行に突入。
「ロビンフッド」である。

ケビン・コスナーがおなじみのロビンフッドを演じる。
今、何故?このような映画なの?
その危惧は、はい、お客様はなびかない。
限られた客層。
夏休みなのに、うだる暑さが、場内の冷房代の光熱費はばかにならない。
経費ばかりかかるだけで、うんざりする。

その最中に、早朝のみのショートムービー製作は続く。
興行が良ければ、気持ちも余裕も出るが、気迫だけで作りあげた。
タイトルは、「何をやってもアカン奴!」

早々にTBSに送る。

忘れもしないことが起こる。
8月31日のお昼ごろ、TBSのディレクターからのお電話。
”せっかく、送って頂いた作品ですが、残念ながらオンエア出来ません。
突然ですが、9月末で、番組が終了します。
まだ一ヶ月あるのですが、すべて作品が埋まっているので、申し訳ありません。”のお返事。

愕然とする。
何故か、頭の中で、晩夏の蝉の余命いくばくかの鳴き方のように
悲しみが襲う。無念を押さえて、”わかりました”と答えるしかない。

ただ、ディレクターは、最終回は総集編として、歴代の受賞者からピックアップして、何人か出演していただくので、出ていただけますか?”のお願い。

気落ちしているが、思わず、”はい。”と答えてしまう。
遠のいた東京進出。
まあ、「枕」で銀監督受賞したが、東京という晴れ舞台で、
自分の才能の無さにはうすうす感じていた。
それでもチャレンジ権があるのなら、前に倒れないと意味がないと、
二ヶ月かけて製作した作品は、自分の未来に釘を刺す意味もあった。
その作品のお披露目も出来ない、評価もいただけない、陽の目を見ない。
お蔵入りである。
(作品は、今では、ユーチューブのおかげで、公開しています。
では、幻の作品「何をやってもアカン奴!」です。ここクリック


夢を諦めるのも才能のひとつ。
そして、才能の無さに気付くのも才能の内と自ら慰めて・・・。
でも、番組最終回に出て、
自分の夢を閉じる事を目の当たりにしたかった。
「えびぞり巨匠天国」は、私の人生のエポックでした。
面白かった。

ここで、きっぱり東京断念。

本業の映画館に専念するが、悪い流れの潮流は、
少し喪失感状態の私に渦を巻くように押し寄せてきた・・・。

<続く

  第一章・第二章  第三章  第四章  最終章





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四日市中映シネマックス

STAFF: Setuo Watanabe  Namiko Tati  Tiaki Kobayasi  Mika Tutui
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